【住宅手当、賞与】
住宅手当も賞与も、法律上支給する義務がありません。従って、支給する場合は、事業所がその支給基準を定めることになります。支給基準とは、支給対象者、支給額等です。ここで問題になるのが、有期パート法第 9 条です。職務内容が正社員と同じパート等に対して、「基本給、賞与、その他の待遇」について「差別的取扱いをしてはならない」と定められています。また、同第 8 条は、職務内容が正社員と相違する場合でも、「不合理と認められる相違を設けてはならない」としています。
フリーターは、正社員と職務内容が同じようです。アルバイトは、職務内容が異なるようです。ところでフリーターはフルタイムですし、特に有期雇用でもなさそうですので、そもそも有期パート法が適用されるのかという問題もあります。
【その前に】
その前に、貴社は 2 名のフリーターに対し、正社員になるよう勧めていますが、本人が合意していないようです。その理由が社会保険に加入したくないというものですが、雇用契約書の内容と実態が異なってフルタイムですから問題があります。社会保険に加入するか、又は社会保険の適用除外となる水準まで所定労働時間を短くするか、二択の状況にあります。民間保険と異なり、社会保険は要件を満たせば強制適用です。この対応によって、正社員になれば取り急ぎ問題解決しそうですね。
【均衡待遇】
問題は、アルバイトかもしれません。アルバイトへの賞与について、最高裁(大阪医科大事件、令 2.10.13)は職務内容が異なることから否定しました。しかし住宅手当については、最高裁(日本郵便事件、令 2.10.15)は契約社員に対する住居手当支払いを認めています。
貴社のパート・アルバイトの場合、正社員と職務内容は異なると思われますが、この場合でも労働条件に不合理な差を設けることは認められないとされているわけです。正社員に対する住宅手当の支給目的等として、たとえば業務命令で転居を伴う異動がある場合等であれば、問題ないかもしれません。しかし貴社の場合、このような異動はなさそうです。
貴社のケースについて、裁判所がどのような判断をするかはとても微妙です。とても微妙ですが、リスクがあります。正社員にしか支給していない理由を説明できない場合は、選択肢の一つとして住宅手当制度の廃止を検討された方が良いかもしれません。現在の住宅手当相当額を、基本給に組み込む対応が考えられます。
【社会を混乱させる労働法】
しかし、高裁と最高裁で裁判官の判断が分かれるような事案について、民間事業所があらかじめ正しく対応することは事実上不可能です。せめてもの方法は、「リスクを避ける」ことくらいでしょうか。
本来、司法や行政が何とかすべき問題です。現在の労働法制は、無駄に社会を混乱させているようにしか思えません。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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