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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和2年11月号》
アルバイトへの住宅手当、賞与
  質 問

【質問者】
 卸売業(正社員 25 名、パート・アルバイト 10 名)

【質問内容】
 当社は、飲食業を営む株式会社です。正社員 2 名とフリーターがフルタイムで、パート・アルバイトは出勤日数が少なく、時間も短い状況です。正社員とフリーターは、調理、接客等の店内業務全般を担当し、パート・アルバイトは主に接客です。
 正社員は、月給制の基本給の他、住宅手当を支給しています。年 2 回、賞与も支給しています。フリーターやパート・アルバイトは時間給制で、手当等はありません。ただフリーターには、正社員に賞与を支払うときに寸志を支給しています。
 先日、フリーターの 1 人から、「正社員と全く同じ仕事をしているのに、住宅手当がなく、賞与も 10 分の 1 くらいしか出ないのは差がありすぎる」と話しがありました。フリーター 2 名は、いずれも元々アルバイトだったところ、次第に労働時間が増えてフルタイムになり、調理も最初は少し手伝う程度だったのが今では正社員と何ら変わらない状況です。今でも雇用契約書上は、1 日 4 時間・週 6 日のアルバイト契約のままです。
 当社としては、正社員になってもらって構わないのですが、2 人とも正社員にはならなくて良いというのです。理由は、社会保険に入りたくないということらしくて…。辞められたら困りますし、何とか正社員との差を縮めたいとは考えています。
 2 人は実態がフルタイムになってしまったのでフリーターと呼んでいますが、当社の「正社員、パート・アルバイト」の区分ではアルバイトのままです。このままフリーターに住宅手当や賞与を支払うと、その他のパート・アルバイトにも支払わなければならくなると困ります。どうするのが良いでしょうか。

  回 答

【住宅手当、賞与】
 住宅手当も賞与も、法律上支給する義務がありません。従って、支給する場合は、事業所がその支給基準を定めることになります。支給基準とは、支給対象者、支給額等です。ここで問題になるのが、有期パート法第 9 条です。職務内容が正社員と同じパート等に対して、「基本給、賞与、その他の待遇」について「差別的取扱いをしてはならない」と定められています。また、同第 8 条は、職務内容が正社員と相違する場合でも、「不合理と認められる相違を設けてはならない」としています。
 フリーターは、正社員と職務内容が同じようです。アルバイトは、職務内容が異なるようです。ところでフリーターはフルタイムですし、特に有期雇用でもなさそうですので、そもそも有期パート法が適用されるのかという問題もあります。

【その前に】
   その前に、貴社は 2 名のフリーターに対し、正社員になるよう勧めていますが、本人が合意していないようです。その理由が社会保険に加入したくないというものですが、雇用契約書の内容と実態が異なってフルタイムですから問題があります。社会保険に加入するか、又は社会保険の適用除外となる水準まで所定労働時間を短くするか、二択の状況にあります。民間保険と異なり、社会保険は要件を満たせば強制適用です。この対応によって、正社員になれば取り急ぎ問題解決しそうですね。

【均衡待遇】
   問題は、アルバイトかもしれません。アルバイトへの賞与について、最高裁(大阪医科大事件、令 2.10.13)は職務内容が異なることから否定しました。しかし住宅手当については、最高裁(日本郵便事件、令 2.10.15)は契約社員に対する住居手当支払いを認めています。
 貴社のパート・アルバイトの場合、正社員と職務内容は異なると思われますが、この場合でも労働条件に不合理な差を設けることは認められないとされているわけです。正社員に対する住宅手当の支給目的等として、たとえば業務命令で転居を伴う異動がある場合等であれば、問題ないかもしれません。しかし貴社の場合、このような異動はなさそうです。
 貴社のケースについて、裁判所がどのような判断をするかはとても微妙です。とても微妙ですが、リスクがあります。正社員にしか支給していない理由を説明できない場合は、選択肢の一つとして住宅手当制度の廃止を検討された方が良いかもしれません。現在の住宅手当相当額を、基本給に組み込む対応が考えられます。

【社会を混乱させる労働法】
 しかし、高裁と最高裁で裁判官の判断が分かれるような事案について、民間事業所があらかじめ正しく対応することは事実上不可能です。せめてもの方法は、「リスクを避ける」ことくらいでしょうか。
 本来、司法や行政が何とかすべき問題です。現在の労働法制は、無駄に社会を混乱させているようにしか思えません。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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