【年俸】
勤務医との契約は、雇用契約でなく委任契約で行われることもあります。その上で、実態も委任であれば、労働法は適用されません。しかし、貴院のご質問から、雇用契約を締結されているようなので、雇用契約であることを前提として回答致します。今回の争点は、年俸の一部を 7 月と 12 月に支払うこととしている点です。ご質問の内容から、雇用契約書において 7 月と 12 月に各 200 万円を支給すると明示されているようです。当然、途中退職を想定せず契約したものと思われますが、12 月に毎月 100万円の他に 200 万円支払うと明確に契約している以上、支払わざるを得ません。契約書には、「但し、途中退職の場合は…」のような定めはありませんか。もしこのような定めがあって、その内容が、たとえば 12 月の別途支給分について「在籍期間に応じた額を支給する」と記載してあれば、年俸額に対する在籍期間相当額(今回の場合 100 万円)の支払いで良いことになります。
【年俸契約の工夫】
年俸制ですから、貴院の@のように単純に 12 分割で支給すれば、このような問題は生じませんでした。どうしても夏と冬の賞与のような支給が必要であれば、万一途中退職の場合の取扱いを定めておくべきです。
万一を言い出すとキリがないのですが、退職しない場合でも、本人が病気等をして一定期間就労不能になる可能性だってゼロではありません。年俸契約であっても、それは年間の所定労働日のすべて就労することを前提として定めた額ですから、欠勤したときは控除できることを雇用契約書に明示しておきたいところです。
またキリがありませんが、欠勤しなかったとしても、期待とはほど遠い仕事ぶりだった場合はどうしましょうか。契約時に交渉可能であれば、年俸は確定額とせず、想定額とする方法が考えられます。想定 1600 万円、毎月 100 万円、夏と冬に勤務査定の結果として、その都度定める額を支給するという方法が考えられます。その都度定めるといっても、想定額は各 200 万円です。あとは勤務査定により変動させるわけです。
【違約金】
違約金は、あらかじめその額を定めておく必要がありますが、そもそも労働法では
違約金を定めること自体が禁じられています。従って、違約金を求めることはできまん。
しかし、実際に被った損害賠償を請求することは認められます。ただ、認められてはいるのですが、実際に被った損害額を立証することが難しすぎて現実的でないという問題があります。労働契約ですから、途中退職は想定内とされ、次の医師の採用のための経費等は損害と認められません。たとえば、当該医師が希望するために、当該医師しか使用できないような特別な機械を購入した場合など、損害が認められる可能性があるケースは珍しいのです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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