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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和3年2月号》
コロナ感染者、濃厚接触者の休業と給与計算
  質 問

【質問者】
 販売業(正社員 30 名、パート・アルバイト 10 名)

【質問内容】
 当社は、販売業を営む株式会社です。従業員の一人が、体調不良を訴え、PCR 検査をした結果、コロナウィルス陽性と判断されました。聞いたところ、正月に親族が集まったそうで、そのときの他の 1 人がコロナ感染者だったとのことでした。いわゆる家族感染だったようです。それから保健所とのやりとりを経て、他の従業員 4 名が「濃厚接触者」と認定され、出勤させないよう要請されました。それから濃厚接触者も PCR検査を受け、結果が陰性だったので、本当にホッとしました。しかし、陰性なのに、陽性者と最後に接触した日から 14 日間は休業させなければならないとかで、やむを得ず休ませることとしました。
 結果的にコロナ感染者は 14 日間、濃厚接触者は 10 日間休んだわけですが、ここで、給与の取扱いをどうすれば良いのかという問題が生じました。
 コロナ感染者は、例年のインフルエンザ感染者と同じように、病欠の扱いで問題ないでしょう。給与計算では欠勤控除し、傷病手当金の申請をしてもらおうと考えています。問題は濃厚接触者です。陰性だったわけですから、病欠ではありません。欠勤控除しても、傷病手当金の申請はできません。かといって、会社の判断で休ませたのではなく、保健所からの要請で休ませたわけです。会社が給与を保障するのもおかしいと思います。どうしたら良いでしょうか。

  回 答

【感染者の給与計算】
 コロナ感染のため休んだ方については、お考えのとおり欠勤控除ということで問題ありません。感染者については、就業禁止という措置です。ノーワークノーペイの原則から、休んだ期間はノーワークですから、給与についてもノーペイです。もちろん、健康保険被保険者であれば、休業期間の 4 日目以降を対象として傷病手当金が受給できます。
 貴社の従業員の場合は、家族感染だったため、以上の取り扱いとなりますが、万一、濃厚接触者とされた方の中から感染者が生じた場合は、原則として異なる取扱いとなります。いわゆる職場感染なので、労災保険の対象となります。労災保険の場合、給与計算では欠勤控除しますが、最初の 3 日間は平均賃金の 6 割以上の休業補償をしなければなりません。4 日目以降は、労災保険の休業補償給付を請求することになります。

【濃厚接触者】
 問題は濃厚接触者ですね。労働基準法第 26 条は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の 100分の 60 以上の手当を支払わなければならない。」と規定しています。保健所が濃厚接触者と指定し、休業を要請したのであって、「使用者の責めに帰すべき事由」にあたるわけがなさそうです。
 いわゆる「不可抗力」による休業といえますが、不可抗力による休業は、@休業の原因が外部から発生したものであること、A事業所が休業を回避する努力を最大限尽くしていること、という要素を満たす必要があるとされています。そして、厚生労働省は、緊急事態宣言や休業要請は@には該当するとしつつも、Aについては在宅勤務等を十分検討しているか、他の業務を探すなど具体的な努力をしているか、等の事情から判断されるという見解を示しています。
 しかし、この問題については、まだ裁判例がありません。厚生労働省が示す見解は、必ずしも絶対にそうだというわけではないのです。私見は、もともと在宅勤務の従業員や 、いつでも即時在宅勤務に切り替えることができる事業所である場合等の例外を除き、原則として休業手当を支払う義務はないと考えます。貴社の場合、例外に当たらない限り、濃厚接触者についても欠勤控除の対象とすることで問題ないと解します。

【しかし…】
 それでも、感染者は傷病手当金(又は労災休業補償)が受けられるのに、濃厚接触者は何もないというのも、なんとも微妙ですよね。年次有給休暇がたくさんあれば、取得させることも考えられます。しかし、入社したばかりや、既に使ってしまった従業員、又は年次有給休暇を使いたくない従業員等、いろいろなケースが考えられます。
 もし休業手当を支払ってもよければ、貴社の負担にはなりますが、従業員の安心にはつながるでしょう。また、もしコロナ禍で売上減少等の要件を満たしている場合は、特例期間中の雇用調整助成金活用の可能性も考えられます。濃厚接触者として休業要請を受けて休ませる場合、本来雇用調整助成金の趣旨から支給対象とされるのは理解できません。しかし、助成金センターに確認したところ支給対象となるということのようです。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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