【減給処分の規制】
公務員不祥事に対し、「1 割減給、6 カ月間」等の処分となったようなマスコミ報道をよく聞きますね。このような処分は、民間企業であれば懲戒解雇ではないかと思われるような悪質な事案のときになされているように感じられます。公務員は、懲戒処分の軽さという観点からも、手厚く守られていると思います。このような公務員の処分は、公務員関係の法令に基づいて行われます。減給については、国家公務員の場合で、2 割以内、最高 1 年間と定められています。
民間の場合、労働基準法による規制があります。具体的には、「1 事案につき 1 回限り、平均賃金 1 日分の半額が上限」というものです。イメージとして、月給 30 万円の場合で、1 事案につき 5000 円減給の 1 回のみ、という感じです。ご質問いただいた「減給 1 割」の時点で超過していますし、「3 カ月間」という処分もできません。
単純に公務員と比較すると、かなり上限が低く、実効性がないように感じられます。ただ、公務員の場合は、かなり悪質な非違行為を対象とする処分という位置づけではありますが。
【就業規則】
労働契約法第 15 条は、冒頭「使用者が労働者を懲戒できる場合において」と始まります。逆に言えば、「懲戒ができない場合」があることを示しています。そして労働基準法第 91 条は、冒頭「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては」と始まります。お気づきの通り、そもそも就業規則に「減給」という処分が定められていない場合は、平均賃金 1 日分の半額という低額の減給処分すらできないということなのです。
貴店は、労働者数が 10 人未満で作成義務もありませんが、就業規則は作成されているでしょうか。作成されていない場合は、個別の雇用契約書等に明示するしかありませんが、実質的に別途就業規則に準じる規程等を作成した方が早いですね。
ちなみに、個別の雇用契約の内容は、次のように制限されます。事業所として、懲戒処分をするためには、少なくとも就業規則か個別雇用契約に定めがなければ、懲戒処分を行う根拠がないことになるのです。
法令 ≦ 就業規則 ≦ 労働協約 ≦ 個別雇用契約
【解雇】
暴行の場合は当然解雇だと考えることは、一般い普通の感覚だと思います。しかし、裁判でその解雇が認められるかどうかは別問題です。一般に、過去に懲戒処分歴や暴行歴がない者が、何らかの理由があって偶発的な一回だけの暴行、しかも被害も大きくない場合は、解雇が認められない傾向にあります。
この観点から、貴店の社員Aについては、他に問題行為等もないようですし、解雇までされる必要はないように感じられます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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