【基本的対処方針】
政府は、「新型コロナウィルス感染症対策の基本的対処方針」というものを定め、必要に応じて改正を繰り返しています。「令和 3 年 5 月 14 日改正」版に記載される「予防接種」の部分から抜粋します。
10)予防接種
E 予防接種は最終的には個人の判断で接種されるものであることから、予防接種に当たっては、リスクとベネフィットを総合的に勘案し接種の判断ができる情報を提供することが必要であること。
その上で、政府は、国民に対して、ワクチンの安全性及び有効性についての情報を提供するなど、的確で丁寧なコミュニケーション等を進め、幅広く予防接種への理解を得るとともに、国民が自らの意思で接種の判断を行うことができるよう取り組むこと。
ここに記載されるとおり、ワクチン接種は「個人の判断」とされています。従って、強制的に接種させることは、できません。
【接種の勧奨】
強制的に接種させることはできませんが、「お願いベース」まで禁止しているわけではありません。貴社の場合、未確定ではありますが、取引先との関係を理由として、接種を勧奨することが考えられます。勧奨の結果、本人が受け入れて接種すれば、目的は達成されます。
一方で、勧奨も行きすぎれば「強要」となります。退職勧奨の場合と似ていますね。
本人が明確に拒否しているのに何度も繰り返し勧奨したり、OK するまで説得する等と称して長時間拘束したり、大勢で取り囲んで勧奨したりすれば、これは勧奨ではなく強要となります。強要の場合、たとえ合意を得たとしても法的に無効ですし、場合によっては損害賠償請求を受ける可能性も考えられます。全く退職勧奨と似ています。
接種勧奨において、アメリカの企業では単に口頭等で勧奨するだけでなく、応じれば食事券等の特典をつける例もあるそうです。何か微妙な気もしますが、感染による被害を考えると、考えられなくはないですね。
【懲戒処分】
既にご理解いただいていると思いますが、ワクチン接種しなかったことを理由とする懲戒処分は、無効です。そもそも接種義務がないわけですから、接種しなくても非違行為に当たらず、懲戒処分とする理由がないわけです。
【採用時の注意事項】
もし取引先が本当に未接種者の出入りを禁止するようであれば、今後新たに採用する者については、ワクチン接種を拒否する者を雇用できないことになります。採用面接のときにしっかり確認しておくことが望まれます。そうしなければ、また同じ問題が生じる可能性があるためです。
ところで、もしかしたら一般施設等においても、「未接種者入場禁止」等の措置をとる例が出てくるかもしれませんね。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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