【コロナ感染と会社の責任】
会社は、労働者に対し安全配慮義務を負っています。しかし、この義務は 24 時間負わされているわけではありません。お考えのとおり、職場感染の場合は労災保険による補償が受けられますが、そうでない場合は原則として自己責任となります。
ただ、かなり認定が難しいと思いますが、通勤中の感染と認められれば通勤災害として労災保険による給付が受けられる可能性はあり得ます。しかし、通勤中は原則として会社の指揮命令下にある時間ではありませんので、「会社の責任」ではありません。
ところで、職場感染の場合、労災保険による給付は受けられますが、それが直ちに「会社の責任」というわけでもありません。コロナ感染リスクは、会社がどれだけ予防したとしても、予見できない面が多々あるためです。
【出勤命令】
会社と労働者とは、労働契約という契約関係にあります。労働者は、会社の指示命令に従って労働を提供する義務を負います。雇用当初において、毎日出勤することが条件の労働契約を締結したはずです。
ところが、コロナ禍にいたり、安全配慮のため在宅勤務を命じたものと思われます。
この際に、「永久に在宅勤務を命ずる」という指示ではなかったと思います。感染予防のため、状況を見ながら適宜対応されただけのことです。あと、出勤と在宅勤務とは、「勤務する場所」の違いであり、その決定権は本人にはなく、基本的に会社の権限なのです。
労働契約において、出勤させることは本来の姿といえます。たとえば、ずっと在宅勤務だったのに、緊急事態宣言期間中に出勤に切り替える命令を出す場合等は、客観的にみても配慮に欠けると考えられます。しかし、このような時期を避けて本来の形に戻そうとされることに、何ら問題ないと考えます。
結論として、対象の従業員は、本人の希望を会社に伝えることまでは問題ないかもしれませんが、それが認められないことを理由として出勤を拒否することは、原則として認められないわけです。
【懲戒処分】
対象従業員に対しては、出勤命令が合理的なものであること、指示命令に従う義務があることについて説明・指導する必要がありますね。それでも、自己中心的な出張を続けて出勤しないのであれば、懲戒処分も検討せざるを得なくなります。
会社として最も問題のある対応は、本人が出勤しないため、なし崩し的に在宅勤務を見て見ぬ振りすることです。取るべき対応は、出勤しない日の労務を受領せず、給与も支給しないことです。給与が支給されないとなると、やむを得ず出勤することも考えられます。
しかし、それでも指導等を経ても従わないのであれば、業務命令違反を理由とする懲戒処分とせざるを得ません。もちろん、いきなり解雇するわけではありません。しかし、軽い懲戒処分をしてもなお指示に従わないのであれば、最終的に懲戒解雇とすることも視野に入れる必要が生じます。IT 業ですから、もしかしたら冷静に話し合って、退職のうえ、委託契約を締結するという選択肢もあるかもしれませんね。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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