【資格等の取得奨励】
会社にとって、従業員の能力向上は、願ってもないことです。そこで、貴社のように、報奨金等の制度を設け、資格取得等を奨励することは、一般に広く行われています。会社の目的は、従業員が資格取得することで知識等を身につけ、もって会社の業務水準を向上させ、さらには新たな業務受注につなげることなどが考えられます。これらのメリットのために、報奨金等を負担するわけです。
しかし、貴社の今回のご相談のように資格取得後すぐに退職するのであれば、本来の目的を達成できないだけでなく、無駄な費用を負担して、場合によっては人材を競合他社に持って行かれてしまうわけです。「返せ!」と言いたくなるのは、当然の心情と言えるでしょう。
【返還請求】
そこで、あらかじめ「○年以内に退職した場合は、全額返還とする」と定めておくことが考えられます。基本的に、このような定めを直接禁止するような法令は存在しません。従って、このような定めをおくことで、返還を求めることは可能でしょう。
ただ、これが訴訟になった場合、裁判官がどう判断するかは、別の問題になります。
裁判例では、様々な事例がありますが、業務と関連する資格の取得等のため要した費用であれば、一般に会社が負担した資格取得費用を返還させることは難しいと判断されています。業務関連の資格取得のための受講料等について、たとえ従業員が任意で希望したとしても、いったん会社が負担してしまえば、最早返金させることはできないと考えておくべきでしょう。
【貸付】
では、どうすべきか。考えられる方法として、資格取得費用を会社が負担するのではなく、あくまでも希望する従業員に貸し付けることが考えられます。その上で、資格取得後○年間継続勤務することで、返済を免除するという方法は、それなりに広く行われています。
しかし、裁判例では、@業務との関連性、A貸付額、B免除までの期間、等を総合的に考慮し、形式的に貸付とされていても、実態判断で返済義務無しとするケースも少なくありません。これも、取得した資格の業務性がかなり重視されているようです。
より確実な運用を目指すのであれば、貸付に関し、形式的でなく実質的な貸付にすることが考えられます。即ち、本当に月々返済させるのです。たとえば 30 万円の貸付であれば、月 5000 円ずつ返済させ、5 年で完済です。途中で退職した場合、残債を請求することになります。
これでは従業員にメリットがないと思われるかもしれません。しかし、そうならないような制度とすべきです。資格取得後に、たとえば毎月資格手当を支給することで、従前と比較して返済によって手取額が減らないようにすることが考えられます。別途報奨金もありますから、前向きな従業員にとっては十分なメリットになると考えます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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