【退職勧奨】
退職勧奨とは、退職をお奨めすることをいいます。退職勧奨に対し、本人が合意することで退職が成立します。合意しなければ、成立しません。貴社の今回のパターンでは、本人が退職することには全く合意していませんので、退職は成立していない状態ということになります。
【賃現減額】
賃金減額も、少し退職勧奨と似ています。原則として、両当事者の合意を前提として、減額できるとされているのです。もっとも、賃金減額の高度の必要性があって、減額後の額が妥当で、労使協議等を経てなされた減額である場合などは、合意がなくても認められることもあります。ただ、賃金の額は、労働契約の重要な契約内容の一つですから、原則として一方的にな変更はできないと考えておく必要があります。
【今回のケース】
今回の貴社のケースは、退職勧奨は成立していませんが、賃金減額なら退職させなくても良いとお考えかと推測します。少なくとも賃金減額は本人が言い始めてますし、貴社が認めることで合意も成立しそうに見えます。しかし、注意しておきたいことは、裁判所は「合意」が「自由意思に基づくもの」であるかどうか、言い替えると「真意による合意」であるかどうかを判断し、合意自体を認めないことがある点です。
最近の裁判例(グローバルサイエンス事件、大阪地裁令和 3.9.9 判決)に、酷似する事案があります。これによると、退職勧奨を受けて本人が賃金減額(29 万⇒ 18 万)で良いので働かせて欲しいと申し出たものですが、裁判所は賃金減額の合意を無効としています。貴社のケースも、後日訴訟になれば、賃金減額が認められない可能性が高いと考えられます。
【対応方法】
対応方法を考えてみます。原則に立ち帰り、退職勧奨への合意の条件として、月 25万円で再雇用するという提案が考えられます。単に賃金減額した場合と実質的には変わらないのですが、いったん退職し、改めて再雇用するという手続が加わります。
この方法でも、訴訟になった場合に認められるとは限りません。争点が賃金減額合意の問題ではなく、退職勧奨合意の有効性の問題となります。退職勧奨においては、金銭支払い等の条件により合意するケースが多いといえます。この方法は、合意の条件を再雇用とするものです。客観的に、本人に合意するメリットが見当たらないことが、合意の有効性を否定する材料になると考えられます。かといって、退職勧奨の合意が得られず、25 万円で雇用継続することが結論であれば、単に賃金減額するより少しだけ良いかもしれません。もっとも、本人が能力を自覚していますし、賃金にも納得して今後継続勤務していくことで、紛争にならない可能性も高いと思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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