【基本原則】
ご指摘の通り、賞与は法律上支払う義務がありません。ただ、法律を持ち出せば、通常の給与についても最低賃金を超える額を支払う義務がありません。毎月の給与として最低賃金を超える額を支払っていたところ、退職する者については最低賃金にして良いかと考えると分かりやすいです。良いわけがありませんね。
さて賞与ですが、毎月の給与との大きな相違点があります。法律上支払い義務がないので、支払う場合は支給対象者、支給時期、支給額等について、基本的に事業所が自由に定めて良いことになります。そこで貴社は、賞与支給対象者を「賞与支給日に在籍する勤続1 年以上の者」と定めたわけです。これによって、法律上支払い義務がなかったのに、定められた支給対象者に該当する者に対しては、賞与を支給することが義務付けられてしまった状態になるわけですが…。
貴社のお気持ちは、非常に理解できます。理解できますが、在籍している以上は賞与を支給せざるを得ないという結論になります。
【支給額の検討】
賞与の「有無」については、既述の通り「有」となります。しかし、賞与の「額」については、検討の余地があります。貴社の賞与支給額は、査定期間の評価を基礎にその都度定められているということです。この評価が前回査定期間よりも低ければ、支給額も低くなるはずです。
あと解釈が分かれますが、賞与は、退職金と違って「今後の勤務への期待」という評価項目が含まれると考えます。同じ期間の査定結果が同じ二人の従業員について、一方に退職予定があるときは、退職予定がない人の賞与が少し高くても理由があるという考え方です。以上から、せめて支給額をどこまで抑えられるか、ご検討いただきたいと思います。
【年休買上】
年休は、退職時に個別協議の結果買い上げても違法ではないとされています。そこで、年休買上という選択肢があります。問題は、本人の合意を得ることが必須ということです。年休買上で退職日を前倒しすることで、賞与支給日に在籍しない状態にすることができます。しかしこれでは本人が納得するわけがありません。結局、賞与支給予定額に準じる額を退職金として支給する等の条件が必要となってきますね。
※法的には買上額は自由ですが、実質的には取得したときと同額程度が相場です。
それでは意味がないとなりそうですが、必ずしもそうではありません。退職日前倒しで、本人は早く失業給付を受給したり転職したりすることが可能になります。賞与に準じる額が退職金として支給されることから、本人が給与や賞与で受給するとかかってくる税金や社会保険料等の負担も減ります。貴社にとっても、社会保険料分は浮きます。大きなメリットはありませんが、前倒しによる1 カ月分と、賞与額の約15 %相当額が浮くわけです。選択肢として検討しても良いと思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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