【労働契約】
パート社員ごとに所定労働日数や所定労働時間数が異なるわけですが、これらはすべて個別の労働契約に根拠が求められます。労働契約に基づく所定労働日について、パート社員が自分の都合で勝手に休むのであれば、これは契約違反です。しかし、最初から「扶養の範囲内で」という話しがあって、認められているわけです。即ち、労働契約において、個別の所定労働日数や時給等が決められていますが、扶養の範囲内におさまらないときの調整方法については労働契約において決められていないという状態だと解されます。
実は貴社と同様の問題は、他の事業所でも本当によくある話しです。パート社員にとっては、扶養範囲内ギリギリまで稼いでしまってから、ゆっくり休みたいのでしょうか。いずれにしても扶養の範囲内として調整して休む日は、せめて閑散期にして欲しいというのは合理的な話しです。厳密にいえば、従来パート社員本人が自由に休みを選べたことから不利益変更にあたるのかもしれませんが、不利益の程度は低く、一方で変更の必要性は高度ですし、新たなルールは特に問題はないと考えます。
【その他の課題】
賞与の支給額は決して大きくはないかもしれませんが、扶養範囲内と考えると大きいです。仮に1 回3 万円の場合、年2 回で6 万円ですが、これは時給1000 円で考えると60 時間分の労働時間に相当します。扶養範囲内の調整が必要な人にとっては、60時間分の休みにつながる結果となりかねないことを意味します。できれば「扶養範囲内」を希望するパート社員に対しては賞与支給対象外としたいところですね。ただ、同一労働同一賃金の観点から、本当にそうして良いのか悩ましい問題です。
昇給も悩ましいです。仮に既に扶養範囲内ギリギリだとすれば、昇給すればその分だけ労働可能時間数が減ることを意味します。できれば昇給せず据え置きたいところですが、最低賃金の底上げもあり、これまた悩ましい問題です。
さらに、101 人以上の事業所は令和4 年10 月から、51 人以上の事業所は令和6 年10月から、社会保険適用が拡大されます。現在は所定労働時間が週30 時間未満であれば年収130 万円未満で扶養範囲内ですが、今後は週20 時間以上なら1 カ月賃金8.8 万円(年105.6 万円)以上で社会保険に加入しなければならなくなります。
以上のとおり、「扶養範囲内」を取り巻く環境は、課題だらけなのです。
【今後の扶養範囲内】
現在貴社は、年収ベースで出勤調整して扶養範囲内を維持することを基本方針とされています。しかし、社会保険の適用用拡大を考えると、現在の「週20 〜 28 時間」を見直せないかという視点も必要かもしれません。
たとえば、1 日6.5 時間・週3 日(19.5 時間)、1 日4.5 時間・週4 日(18 時間)等を所定労働時間とすることで、130 万円未満まで扶養範囲内です。週20 時間以上必要な場合は、1 カ月あたりの労働時間数は、「8.8 万円÷時給単価」を下回る時間数で所定労働時間を設定するよう意識する必要が生じます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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