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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和4年10月号》
昇進拒否と役職手当
  質 問

【質問者】
販売業(正社員10 名、パート5 名)

【質問内容】
当社は、販売業を営む株式会社です。従業員は、女性の割合が高いです。正社員10名のうち、2 名は勤続10 年以上ですが、8 名は概ね5 年未満です。
10 年くらい前から、育児休業を取得する例が増えてきました。休業期間中の代替要員の確保は難しく、普通に正社員かパートを雇用することが多いのですが、退職する者もあるため、結果的にちょうど良かったりしています。そして3 年くらい前から、育児休業後に育児短時間勤務を希望する者が増えてきました。
育児短時間勤務は法律の制度なのでやむを得ないのですが、その短時間の勤務すら満足にできない従業員が目立つようになりました。理由は子どもの体調不良等によるものですが、頻繁に「当日申出による欠勤」となると、他の従業員との人間関係にも影響が生じます。また、短時間勤務が可能な満3 歳を過ぎてからも、子どもの都合で朝の始業時刻に間に合わないとか、終業時刻前に帰らなければならないとか、とにかく自分の都合ばかり主張する者が増えてきました。
当社は、「子育てに優しい会社」でありたいと考え、子どもの都合であればよほどのことがない限り従業員の希望を聞いてきました。育児休業中も賞与は半分くらい支給し、育児短時間勤務でも給与は月給を満額支払っています。子の看護休暇も年次有給休暇とは別に有給休暇としています。しかし、従業員は、これらの制度を利用するだけ利用し、職場復帰から3 年くらい経過すると退職する者も少なくなくありません。
逆に子どもがいない従業員等からは逆差別だと不満の声が上がるようになり、収拾がつかなくなっています。当社も、これらの取扱いが間違いだったように感じています。
そこで、今後は法律上の義務を越える取扱いは、すべて廃止しようと考えています。 何か問題があるでしょうか。

  回 答

【育児介護休業法】
大雑把ですが、【産前産後休業⇒育児休業⇒育児短時間勤務】を認めることが、法律上の義務ですね。育児短時間勤務も、所定8 時間のところ6 時間勤務を認めるもので、「2 時間休業」を意味します。産前産後休業、育児休業と同様に、休業制度といっていいでしょう。法律上の義務は、「休業を与えること」だけです。これに「給与を保障」する必要はありません。ありませんが、貴社は賞与を半額程度支給し、育児短時間勤務でも給与を満額保障しているとのことです。
法律上義務がないとはいえ、既に制度化してしまった事項については、既得権のようなものが発生します。たとえば、法律上は最低賃金を支払えば合法ですが、これを越える給与を支払っていて、「法律上の義務はないから」といって最低賃金に変更することが難しいことは理解いただけると思います。休業中の給与を全く支給しないことに変更するためには、基本的には従業員の合意が必要となります。

【合意を得られなければ】
合意が得られない可能性が考えられます。この場合、どうすれば良いでしょうか。
推測ですが、変更しても特に影響のない方にとっては、合意する可能性が高いと思われます。合意しないのは、現に利益を得ている者や、今後利益を得られる可能性がある者が中心になると思われます。
仮に全従業員の8 割が合意したとしても、それで一気に変更して良いかというと悩ましいです。個別合意が得られない場合、大多数の合意があったとしても、経過措置や代替措置をとる等、客観的に認められやすい何らかの措置をとっておきたいところだと思います。

【根本的な考え方】
育児に対する理解は必要ですし、「子育てに優しい会社」であることを否定するつもりはありません。しかし、そのことによって、育児と無関係の従業員に過度の負担を求めるものであるならば、明らかに不公平です。近年、少子化の影響もあって、特に育児に関する配慮が当然であるかのような空気があります。しかし、育児に専念せず、仕事を継続することを選択したのが従業員本人であることも忘れてはなりません。
仕事と育児の「両立」を目指すべきであって、育児のため「仕事を犠牲」にするのであれば、それは本末転倒だと考えます。
本来、子育ては個人の都合です。社会背景から、社会全体で支援することは必要ですが、支援を受ける者が権利濫用するようなことが許されて良いと言う話しではありません。育児のための配慮は、他の従業員の協力によって成立していることは、常に念頭に置いておきたい事項です。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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