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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和4年11月号》
子育て都合にどこまで対応?
  質 問

【質問者】
製造業(正社員120 名、パート20 名)

【質問内容】
当社は、製造業を営む株式会社です。従業員は、@製品開発部門、A製造部門、B営業部門、C管理部門のいずれかに所属します。正社員は、職種の異動はありますが、比較的少なく、長年にわたって異動がないケースが多いです。
各部門には、部長、次長、課長、係長、主任の役職があります。役職者には、役職手当を支給します。高校新卒の場合、入社5 〜 7 年くらいでほぼ全員が主任になります。その先は、早い人で20 代後半係長、30 代後半課長に昇進します。遅い人は30 代後半係長、50 代前半課長くらいです。もっとも、係長以上については、昇進しない人も出てきます。次長・部長は、各部門に1 人ずつの管理監督者の位置づけです。
さて、役職に関して、困ったことが生じました。高校新卒入社以来、非常に優秀で誠実に働く従業員がいまして、23 歳で主任、28 歳で係長に昇進させました。この従業員が33 歳になりました。年齢的には少しだけ早いかもしれませんが、皆が納得する実績もありますから、課長に昇進させることとし、本人に内示したのです。すると、意外にも、課長昇進を拒否されたのです。先例では課長昇進は若くて35 歳だったので、少し荷が重く感じたのかと思い、話を聞いてみたのですが、どうも年齢の話しではなく、課長以上の役職に就きたくないというのです。当社としては、将来の管理監督者筆頭候補と考えていただけに、ショックが大きいです。このような場合、どのように対応したら良いものでしょうか。

  回 答

【異動】
役職の昇進は、いわゆる人事異動の一つです。人事異動は、事業所の裁量によって決定するのが通常です。その根拠は就業規則の定めにあるのが一般的です。そして就業規則では、役職の任命、昇進、降格等について、事業所が命じることができることに加え、命じられた従業員はこれを拒否できないような定め方が一般的かと思います。以上の前提の場合、昇進を命じれば本人は拒否できないわけですから、拒否すれば就業規則違反(業務命令違反)となります。懲戒処分の対象となってしまうわけです。そのため、多くの事業所は、あらかじめ内示し、本人の承諾を経て異動を命じるという、実に日本人らしい段階を踏むケースも多く、今回の貴社もそうですね。
対応は、最終的に究極の二択となります。内示を拒否されても異動を命じるか、逆に昇進させることを取り下げるかです。異動を命じたのに拒否された場合、一般的には懲戒解雇処分が視野に入ることになってしまいます。とうことは、異動命令前に説得が必要です。それでもダメなら、優秀な人材の場合取り下げを検討することになりますが、これは悪しき先例になりかねません。悩ましい問題です。

【出世を望まない若者が増えている?】
最近は、出世を望まない若者が増えていると言われます。インターネットを検索すると、そのような記事がたくさん見つかります。総合的に見て、出世を望まない理由は、@責任が重くなること、A業務量が増加すること、B給与が見合わないこと、に集約されるようです。
責任が重くなることを嫌う話しはよく聞きます。しかし、労働法を基準に考えると、管理監督者に昇進しない限りさほど責任は重くありません。法的な責任ではなく、部下の指導や、課や係における目標達成等、事業所内における責任が重くなることを嫌っているものと思われます。業務量の増加は、事業所による差異があると思いますが、一般的にはそうでしょう。最後に、給与の問題は、客観的に確かにそうだと感じるケースが散見されるところです。

【役職手当】
貴社の場合、課長と次長とを比較して、役職手当はどれくらいの差があるでしょうか。課長には残業代が支給されますが、次長は管理監督者だから支給されません。世間では、残業代の関係で管理監督者になると実質給与が下がるというケースも存在します。責任が重くなり、業務量が増え、給与が減るのなら、昇進したくないと言われる事業所側に問題があるといえるかもしれません。
貴社の場合、係長と課長の役職手当の差は、どれくらいでしょうか。係長と課長のの職責・業務量の差と見合っているでしょうか。従業員は、給与をもらうために働いています。激務で100 もらうより、ラクして90 で良いと考える人は、たくさんいると思われます。しかし、ラクして90 よりも、120 なら激務を選ぶ人も少なくないでしょう。このあたりをうまく設定することで、昇進したくない人の一部の気持ちを変える可能性があるかもしれません。役職手当は、有効な制度にしたいところです。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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