【異動】
役職の昇進は、いわゆる人事異動の一つです。人事異動は、事業所の裁量によって決定するのが通常です。その根拠は就業規則の定めにあるのが一般的です。そして就業規則では、役職の任命、昇進、降格等について、事業所が命じることができることに加え、命じられた従業員はこれを拒否できないような定め方が一般的かと思います。以上の前提の場合、昇進を命じれば本人は拒否できないわけですから、拒否すれば就業規則違反(業務命令違反)となります。懲戒処分の対象となってしまうわけです。そのため、多くの事業所は、あらかじめ内示し、本人の承諾を経て異動を命じるという、実に日本人らしい段階を踏むケースも多く、今回の貴社もそうですね。
対応は、最終的に究極の二択となります。内示を拒否されても異動を命じるか、逆に昇進させることを取り下げるかです。異動を命じたのに拒否された場合、一般的には懲戒解雇処分が視野に入ることになってしまいます。とうことは、異動命令前に説得が必要です。それでもダメなら、優秀な人材の場合取り下げを検討することになりますが、これは悪しき先例になりかねません。悩ましい問題です。
【出世を望まない若者が増えている?】
最近は、出世を望まない若者が増えていると言われます。インターネットを検索すると、そのような記事がたくさん見つかります。総合的に見て、出世を望まない理由は、@責任が重くなること、A業務量が増加すること、B給与が見合わないこと、に集約されるようです。
責任が重くなることを嫌う話しはよく聞きます。しかし、労働法を基準に考えると、管理監督者に昇進しない限りさほど責任は重くありません。法的な責任ではなく、部下の指導や、課や係における目標達成等、事業所内における責任が重くなることを嫌っているものと思われます。業務量の増加は、事業所による差異があると思いますが、一般的にはそうでしょう。最後に、給与の問題は、客観的に確かにそうだと感じるケースが散見されるところです。
【役職手当】
貴社の場合、課長と次長とを比較して、役職手当はどれくらいの差があるでしょうか。課長には残業代が支給されますが、次長は管理監督者だから支給されません。世間では、残業代の関係で管理監督者になると実質給与が下がるというケースも存在します。責任が重くなり、業務量が増え、給与が減るのなら、昇進したくないと言われる事業所側に問題があるといえるかもしれません。
貴社の場合、係長と課長の役職手当の差は、どれくらいでしょうか。係長と課長のの職責・業務量の差と見合っているでしょうか。従業員は、給与をもらうために働いています。激務で100 もらうより、ラクして90 で良いと考える人は、たくさんいると思われます。しかし、ラクして90 よりも、120 なら激務を選ぶ人も少なくないでしょう。このあたりをうまく設定することで、昇進したくない人の一部の気持ちを変える可能性があるかもしれません。役職手当は、有効な制度にしたいところです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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