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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和4年12月号》
中小企業の賞与額決定の考え方の一例
  質 問

【質問者】
IT業(正社員20 名)

【質問内容】
当社は、IT業を営む株式会社です。創業5 年目です。創業以来、業績は好調でした。従業員数は、創業時は2 人で、その後毎年少しずつ増員し、今年も3 人採用しました。しかし、今年は業績が悪くはないのですが横ばいのような状況になりました。その結果、大まかに言えば新人3 人分の人件費の負担が増えた分、会社利益が減額になったような感じになりました。
賞与は、毎年7 月と12 月に支給してきました。支給額は、会社の利益の状況と各従業員の業績や貢献度に応じて、その都度個別に決めてきました。昨年まで、全員に対して前回の賞与額を上回る額を支給してきました。しかし今年7 月は、利益の状況が微妙になったこともあって悩んだのですが、業績や貢献度の低い従業員については前回賞与額と同額とし、高い従業員については少しだけ増額しました。
今回の悩みは、12 月賞与です。まず、新人に支給すべきかどうか。雇用契約書には、賞与は7 月と12 月に支給と記載していて、但し最初の7 月は支給しないと記載していました。単純な話しですが、12 月は支給するという契約です。従来、新人の場合は、最も低い場合で10 万円、個別貢献度が高い者は2 年目以降と同様の額を支給してきました。しかし今回は、3 万〜 5 万程度で検討したいと考えているところです。次に2年目以降の従業員ですが、貢献度が低い者については貢献度に見合った額にしたいと考えています。簡単に言えば、前回賞与額よりも減額となります。
以上2 点、よろしいでしょうか。ちなみに就業規則には、賞与は、@利益が確保できているときのみ支給、A支給額は貢献度、勤務態度等を総合勘案して個別に決定、B支給延期又は不支給とすることがある、と規定しています。

  回 答

【賞与の原則】
賞与は、法律上支給する義務がありません。支給することは自由です。支給する場合、支給額の算定方法、支給時期、支給回数など、すべて自由です。何が「自由」かというと、支給ルールを定めることが自由ということになります。そして、いったん支給ルールを定めれば、定めた事業所は自ら定めた支給ルールに拘束されることになります。支給ルールは、基本的には就業規則で定めることになります。また、場合によっては、個別労働契約で定められることも考えられます。

【就業規則と個別契約】
貴社の場合、就業規則に賞与に関する規定があります。これを見る限り、新人の初年度2 回目の賞与額の定めはありません。従って、今回3 〜 5 万円とすることは問題無さそうです。また2 年目以降の従業員に対しても、前回賞与額を保証する定めはありませんし、その都度個別評価で定まることとされていることから、減額となる者が生じても問題無さそうです。
あとは個別労働契約の内容です。新人については、雇用契約書の記載から、12 月賞与は支給する前提ではありますが、具体的な額等の記載は無いようです。あと確認しておきたいこととして、採用時等において、口頭で12 月の賞与は「10 万円以上支給する」等と話していないかという点です。もしこのような話しをしていた場合等は、10万円以上支給しなければ問題があることになります。
2 年目以降の従業員については、雇用契約書の記載が不明ですが、おそらく新人の内容と同様だと思われます。新人と同様に、口頭で「前回賞与額以上を支給する」等と言っていた場合等は、問題があることになります。

【賞与額の考え方】
原則的な賞与は、毎月賃金とは別に上乗せして支給する賃金という位置づけです。
貴社の場合、利益還元と個別評価による功労金の両方の意味が含まれると考えられます。これまでの支給額の実績は、どうだったでしょうか。貢献度が低い者に対しても、利益還元の意味で増額を繰り返してきたのではないかと推測します。即ち、利益還元分として増額し、個別評価分としては増額しなかったというような感じです。
今回、初めて減額を検討されているわけですが、利益還元分が減少したと考えれば、辻褄は合いそうです。しかし、このような考え方の場合、利益が確保できれば、貢献度が極めて低い者でも、それなりの利益還元賞与を支給することを意味します。
賞与は自由ですから、これで良ければ構いません。しかし、業績絶好調の際に、貢献度が100 の者と限りなく0 に近い者の賞与額の差が、どれくらい開くのでしょうか。
大差がつかなければ、優秀な人材が不満を覚えることになりかねません。利益還元は全員の賞与総額を決める指標とし、賞与総額の個別分配額については個別貢献度を指標とする、という考え方もあります。可能な範囲で、賞与額決定の全体又は一部について、このような考え方もご検討ください。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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