【70歳までの就業確保】
ご指摘のとおり、70 歳までの就業確保について「努力義務」とされています。具体的には、次のいずれかの措置をとることとされています。
@定年を70 歳以上に引き上げ
A定年の廃止
B 65 歳以後70 歳までの再雇用制度又は勤務延長制度の導入
C 70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
D 70 歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
【リスクについて】
以上のとおり選択肢は5 つありますが、紙幅の関係で非雇用・労働者代表の合意を要するCDは割愛します。最もリスクが大きいのがA定年廃止です。正真正銘の「終身雇用」となりますから。もちろん、会社業務に貢献してくれる限り問題ないのですが、定年がないため大雑把に言えば「自己都合退職」か「解雇」のいずれかがない限り、貴社が望まなくても雇用契約が続いてしまうのです。@定年引き上げも、60 歳・65歳での賃金見直しの必要性がある場合は、やりにくくなります。また、退職金制度との関係等、定年を変えることで連動してしまう諸問題も事前に押さえておく必要があります。
ということで、現実的にはA再雇用制度が最も現実的な選択肢となります。実際、貴社は満60 歳定年後も再雇用制度で対応されてます。このリスクは、貴社にとって辞めて欲しい人である場合でも、本人が希望する限り70 歳まで雇用しなければならなくなってしまうという一点に尽きます。
【ちょっと変化球】
満60 歳定年後の再雇用は、平成25 年3 月までに労使協定締結を条件に、「雇用するための基準」を設けることができました。当時の法改正で廃止が決まりましたが、段階的廃止ということで、まだ少しだけ残っています。令和7 年3 月までは、満64 歳で基準に達しない者について雇用しないことが認められているのです。
現時点において、満70 歳までの雇用等は「努力義務」であって、「義務」ではありません。そこで、原則として希望者は満70 歳まで雇用することを前提としつつも、そのための条件というか基準を設定することが考えられます。法律上義務がないところでの基準ですから、差別的取扱い等をしない限り基本的に自由に設定できます。例えば、病気休職した者、出勤率が9 割を下回った者、勤務評価が低い者、懲戒処分を受けた者など、65 歳以降の再雇用をしない者として定めることが考えられます。平成25年3 月以前の基準は労使協定が必要でしたが、満65 歳以降はそもそも雇用義務がないため労使協定締結の必要もありません。
ただ、従業員に期待させてしまうことが考えられます。貴社が基準を満たさないことを理由に拒否したとしても、労働紛争につながる可能性も考えられるわけです。求人への効果がどれくらいあるかわかりませんが、早急に導入を検討する高度の必要性まではないかもしれません。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|