【労災認定の事例】
令和4 年11 月の報道で、同様のケースにおいてハラスメントによる労災認定された事案がありました。労災認定されたのは、男性として生まれ、女性として生活する40代従業員です(推測ですが、外観も女性として生活していたと思われます。)。報道によると、上司の発言がハラスメントと認定されたようで、具体的には次のようなものです。
・「戸籍上は男性なのか女性なのか」
・「女性としてみられたいのであれば細やかな心遣いが必要だ」
・「君付け」、「彼」と繰り返す
この結果、うつ病を発症し、休職に至ったようです。
【SOGIハラ】
性的言動に起因すればセクハラ、職務上必要な範囲を超える不当な発言であればパワハラですが、最近は「SOGI ハラ」という言葉が使用されることが増えているようです。SOGI とは、性的指向(Sexual Orientation)・性的自認(Gender Identity)を略した言葉です。性的指向や性自認に関する嫌がらせ、のような定義になります。「なくそう! SOGI ハラ」実行委員会のホームページには、次のようなものがSOGI ハラにあたると紹介されています。
@差別的な言動や嘲笑
Aいじめ・無視・暴力
B望まない性別での生活の強要
C不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
D誰かのSOGI について許可無く公表すること(アウティング)とるべき配慮は、「本人が望まない言動をしない」という一言に尽きます。セクハラやパワハラと共通する対応です。そしてまず真っ先にすべき対応は、上記Dの確認です。心が女性だということを他の従業員に知らせて良いか、明確に確認しておく必要があります。話しの流れから、あらかじめ伝えてハラスメント予防を求めたようにとれなくはありませんが、後日揉めないよう確実に押さえておきたいです。
【普通に接する】
私見ですが、本人への対応として、特別なことをしようと考える必要はないと思います。普通に接するだけで良いのです。心と体の性が一致している人と異なる取扱いをすることが、SOGI ハラにつながる可能性も考えられるからです。
もちろん、「心は女性」ということだけは認識しておく必要はあります。男性に対してしか言わないようなことを言ったり、見た目は男性「なのに」という考えに基づくことを言ったりしないことです。それ以前に、誰に対しても同じように「相手を尊重する」という姿勢が求められます。少し危惧されるのが、貴社の従業員は、年齢構成が高めだということです。一般に、若い世代よりも、中高齢の世代の方がハラスメントに対する理解がないと言われます(もちろん年代でなく人によりますが。)。ハラスメント研修を実施するなど、貴社として可能な予防対策はしておきたいですね。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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