そこが知りたい!労働法

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和5年4月号》
労働者代表の選出
  質 問

【質問者】
販売業(正社員40 名、パート・アルバイト10 名)

【質問内容】
当社は、販売業を営む株式会社です。福岡の本店の他、北九州、熊本、鹿児島にそれぞれ3 〜 4 名の小規模な営業所があります。三六協定(時間外休日労働協定)は、本店だけ締結して届出をしていました。しかし、このたび北九州営業所に労働基準監督官の臨検指導が入り、三六協定未締結ということで是正勧告を受けました。恥ずかしながら、営業所も三六協定が必要だということすら知りませんでした。
今回、北九州だけでなく、熊本と鹿児島も三六協定を締結して届出することにしました。そこで、各営業所は所長を労働者代表者として記名するよう指示しましたら、1人の所長から「管理職は労働者代表者になれない」という話しが上がってきました。しかし、福岡本店では管理職である課長が労働者代表を務めてきました。当社では、本店の課長と営業所の所長は同格です。上には統括部長、販売部長、総務部長の3 人がいて、この3 人が労働者代表になれない管理職だと理解しています。

  回 答

【届出】
労働基準法は、原則として週40 時間・1 日8 時間の「法定労働時間」を越える労働を禁止しています。また、4 週間につき4 日間の「法定休日」に勤務させることも禁止してきます。しかし、事業所と労働者代表が時間外の上限時間数を取り決めて協定し、これを労働基準監督署長に届け出た場合に限り、法定労働時間を越える労働や法定休日労働をさせることが認められる、というしくみになっています。
以上のようなしくみなので、三六協定が未届であること自体は違法ではありません。違法となるのは、三六協定未届なのに法定時間外労働又は法定休日労働があった、という点になります。
労働基準監督署に届出を要するものとして、就業規則届があります。こちらは、10人以上の事業所に義務づけられています。貴社の各営業所については届出不要です。

【管理監督者】
労働者代表者になれないのは、労働基準法上の「管理監督者」です。貴社の場合、統括部長と部長を管理監督者として取扱い、課長・所長を管理監督者でない管理職として取り扱っているように感じられます。管理職である所長が、労働者代表者になれるのかなれないのか。これは管理監督者に当たるのか当たらないのかという問題になります。厳密にいえば、実態を確認しなければわかりませんし、実態を確認しても裁判所がどう判断するかもわからないというのが現実です。ただ、貴社の従業員数規模から、貴社の運用の通り課長と所長は管理監督者に当たらない可能性が高いと思われます。
ちなみに、課長・所長に対しては、残業代等は支払ってますでしょうか。一般に、管理監督者には残業代を支払いません。逆に言えば、残業代を支払っていれば管理監督者ではない取扱いをしているということがいえます。

【民主的な選出】
ところで、今回いただいたご質問で一番気になったのは、「所長を労働者代表者として記載するよう指示」という点です。労働者代表者は、事業所が指名することができないのです。労働者代表者とは、厳密にいえば「労働者の過半数を代表する者」です。この場合の労働者には、貴社の場合パート・アルバイトも含まれます。具体的な選出方法については、法律上は特に指定がありませんが、民主的な方法で決定することが求められています。一般に「投票、挙手」等で選出するとされています。少なくとも、貴社から「所長」と指定することはできません。事業所が労働者代表者を指定して三六協定を締結した場合、その協定は無効とされています。4 人の営業所なら過半数である3 人以上が同意した労働者を代表としていただく必要があります。
最近は、労働者側弁護士や合同労組等が、相談に訪れた労働者に対し、労働者代表選任の選挙とか話しとかがあったか確認する例が増えています。そして、そのようなことが全くなかったと確認するだけで、三六協定の届出の有無を問わず「違法残業させた」と事業所を責めるのです。中には、労働基準監督署に刑事告発するケースも出てきてきます。労働者代表者の選出は、慎重に行っていただきたいと思います。
※ 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合と協定します。そもそも働き方改革法においても、時間外の上限時間として、原則月45 時間・年6カ月までは月100 時間未満かつ2 〜 6 カ月平均月80 時間以下という明確な基準を定めました。それなら、わざわざ事業所に繁雑な手続をさせ、監督官の業務を増大させ、さらに労働問題になりかねないような三六協定制度自体を廃止すればいいのにと思ってしまいますね。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
                     前へ<<               >>次へ
>>そこが知りたい!労働法リストに戻る