そこが知りたい!労働法

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和5年5月号》
パワハラ申告とヒアリング
  質 問

【質問者】
製造販売業(正社員300 名、パート・アルバイト50 名)

【質問内容】
当社は、製造販売業を営む株式会社です。ある女性社員から当社相談窓口に「上司からパワハラを受けた」と申告がありました。その内容は、次のとおりです。

@会議への同席を依頼した際、他の予定もないのに拒否された。
Aルールに反する業務を指示され、断ると「やれ!」と怒鳴りつけられた。
B心療内科を受診したところ、上司が総務に「職務放棄」と報告した。
C 10 年間担当していた業務について、理解できない理由で突然外された。
D他の者が紛失した書類を私が紛失したと決めつけ、「探せ!」と怒鳴った。
E他の業務の担当者が休んだときに、私と全く接点がない業務なのにさせられた。
F担当業務の会議に招集されず、以降会議に呼ばれなかった。
G「部内の打合せでキレたから」という理由で査定を下げられた。
H休暇取得者の業務について他の担当者がいるのに担当外業務を強要された。
I男性は「室長」、女性は「室長補佐」と名刺に記載させ、業務を強制した。

申告@〜Iについて、上司に聞き取りをしたところ、次のような回答でした。

@予定が空いていても、出席の必要の有無を会議ごとに判断したに過ぎない。
A何ら不当な業務でもないし、本人からヒステリックな大声で反発を受けたため、淡々と「業務指示としてやりなさい」と告げたに過ぎない。
B上長の承認を得ず無断で退社した事実を報告したに過ぎない。
C合理的な理由で外し、その理由も説明した。
D探すことを指示したに過ぎないし、怒鳴ってもいない。
E本人が「なんで私が!」と反発したから、他の者で業務を回すことにした。
F会議人数削減は、会社方針だった。
G一例として会議中に机に書類を叩きつけたことを挙げたが、これだけでなく相対的に他の社員と比較して劣っていた。
H本人が「私がするんでしょうか!」と反発したから、「嫌ならしなくていい」と告げたに過ぎない。
I名刺の肩書きは会社が決めたことであり、私が決めたことではない。

意見が真っ向から対立しているのですが、どう対応したら良いでしょうか。

  回 答

【ヒアリング】
被害者からの申告に際しては、パワハラ6 類型にあたる言動の有無について聞き取るよう心がける必要があります。被害者の申告内容は、本人が大きな不満を抱いていることは伝わりますが、具体的にパワハラに当たるとまではいえないように感じられます。確認したい事項は、@上長が会議に同席する慣習の有無、A「ルールに反した業務」という点が事実か、B報告内容は事実か、C外した理由は何か、D決めつけたのは事実か、E他に適任者がいたのか、F「仕事を与えない」に当たるか、G不当に査定を下げた事実があるか、H他に適任者がいたのか、I男女差別に当たるか、などがポイントになりそうです。

【判断】
貴社は、パワハラの事実認定をする立場にあります。仮にパワハラに該当すると判断するのであれば、懲戒処分についても検討することになります。その上で、再発防止措置をとることも必要になります。仮にパワハラの事実はなかったと判断するのであれば、そのことについて被害申告した者に説明する必要があります。
事案は、タイガー魔法瓶事件(大阪地裁令和4.10.28 判決)と酷似しております。同判決は、原告の主張をすべて退けています。

【ハラスメント対応の難しさ】
被害申告する者は、一般に自分にとって都合の悪い話しはしません。とにかく被害者であることを前提に、加害者の言動を悪く解釈して報告します。録音や動画等の証拠があればわかりやすいのですが、録音も継ぎ接ぎ編集されていることもあり、信用できないケースも存在します。まだ加害者側の話しを聞いていない段階の相談窓口担当者は、心証として被害者寄りになってしまうことも考えられます。反対に加害者側の話しを聞くと、真っ向から否定されることが少なくありません。一部認めても、すべて認めるとは限りません。それでも事業所は、ハラスメントの有無について結論を出し、さらに事後措置対応も含めて対応を強いられるわけです。
そして事業所は、認定して懲戒処分すれば加害者から訴えられ、認定しなければ被害者から訴えられるリスクがあります。初動段階から、訴訟を見据えた対応が望まれるということです。特にヒアリングでは、「事実」が何なのか聞き出せるよう、効果的な質問等が求められます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
                     前へ<<               >>次へ
>>そこが知りたい!労働法リストに戻る