【求人情報と採用条件】
求人情報に記載した給与額より低い額で採用すること自体は、違法ではありません。
採用決定前に個別の採用条件を明確に示し、その条件について本人から合意が得られれば、求人情報に記載した給与額より低い額での採用は可能です。貴社の場合、ここまでは問題ありませんでした。問題は、採用時に労働条件を書面明示していなかった点です(労働基準法第15 条違反)。この点については、間違いなく労働基準監督官から是正勧告を受けることになります。
【対応】
書面明示がない点は労働基準法違反ですが、採用条件について合意があった点については証拠がないとはいえ事実です。労働基準監督官に対しては、この点はしっかりと主張していただいて良いと思います。労働基準監督官が、それでも求人情報に記載した給与を支払うよう指導する可能性は低いと考えます。もしかしたら本人に労働局のあっせんを申し立てるよう勧めるかもしれません。あっせんの場合、応じる義務はありませんが、応じたうえであっせん委員にこちらの要望を打診すると良いと思います。おそらく貴社としては、受け入れ可能な金銭支払いの範囲内で退職和解できれば一番良いのではないでしょうか。
一方、仮に本人から提訴された場合、裁判所は貴社の主張を否認する可能性が高いと予想されます。証拠がないからです。しかしながら、給与の差額を求める訴訟ですから、金額的には高額ではありません。提訴自体の可能性は低いでしょう。
【ハラスメント対応の難しさ】
被害申告する者は、一般に自分にとって都合の悪い話しはしません。とにかく被害者であることを前提に、加害者の言動を悪く解釈して報告します。録音や動画等の証拠があればわかりやすいのですが、録音も継ぎ接ぎ編集されていることもあり、信用できないケースも存在します。まだ加害者側の話しを聞いていない段階の相談窓口担当者は、心証として被害者寄りになってしまうことも考えられます。反対に加害者側の話しを聞くと、真っ向から否定されることが少なくありません。一部認めても、すべて認めるとは限りません。それでも事業所は、ハラスメントの有無について結論を出し、さらに事後措置対応も含めて対応を強いられるわけです。
そして事業所は、認定して懲戒処分すれば加害者から訴えられ、認定しなければ被害者から訴えられるリスクがあります。初動段階から、訴訟を見据えた対応が望まれるということです。特にヒアリングでは、「事実」が何なのか聞き出せるよう、効果的な質問等が求められます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|