【通勤中の痴漢行為と逮捕】
いきなり警察から連絡があると、驚きますよね。まず、従業員が逮捕されたとしても、その時点で本当に痴漢行為をしたのかどうか確定しているわけではないことを認識しておく必要があります。ネットニュースでは容疑を認めていると報道されているようですが、そのまま鵜呑みにして良いわけではありません。実際に本人が容疑を認めていることを確認、又は最終的に罪が確定した時点で、懲戒処分等を実施する流れになります。
逮捕された場合、身柄拘束は最大3 日(72 時間)です。この間は、貴社のどなたかが接見に行っても基本的に会わせてもらえません。この間にコンタクトをとるのであれば、弁護士に依頼するしかありません。
警察で身柄拘束を継続する場合は、拘留に切り替える手続がとられます。最長で20日間です。痴漢の場合、逮捕後素直に容疑を認めている場合で、過去に犯罪歴もないようであれば、拘留前に釈放される例も少なくありません。
【確認】
貴社としては、早い段階で本人が容疑を認めているかどうかについて、確認したいですね。釈放後に面談等するか、又は拘留中に接見するかのいずれかとなります。逮捕直後に弁護士に依頼する方法もありますが、痴漢の場合はそこまで急ぐ必要はないことが多いように思います。本人が容疑を認めているようであれば、会社としてどう対応するか決めて良いでしょう。
ここで懲戒解雇処分を決定…と言いたいところですが、冷静に検討する必要があります。通勤中といえども就業時間外です。「私生活上の非違行為」にあたります。私生活上の非違行為に対する懲戒処分に対し、裁判所はかなり厳しい判断をします。ニュース等において会社名が報道され、会社の社会的評価に悪影響を及ぼすなど特別な理由がない限り、基本的に解雇無効と判断する傾向なのです。もっとも、痴漢である本人が、恥ずかしげも無く提訴に及ぶのかという観点もありますが。
そもそも、釈放後に本人が平気な顔で出勤できるのかという視点もありますね。
【解雇か、退職届を提出させるか】
本人の職場復帰を認めないことを前提に考えると、選択肢は主に2 つになりそうです。1 つは解雇です。但し、訴訟リスクが残ります。もう1 つは、本人に退職届を提出させることです。
本人に退職届を提出させる場合、理想は本人が勝手に退職届を提出してくることです。意外とこのパターンは少なくありません。本人が最早出勤できないと考え、自発的に退職届を提出するという真っ当な流れです。自発的でない場合も、貴社から一言話すだけで簡単に提出するケースもあります。
なかなか提出しない場合でも、実際に出勤しないのであれば、早かれ遅かれ提出されるでしょう。提出なく出勤しないのなら、「正当な理由のない欠勤」を重ねて改善の見込みがないわけですから、これが解雇事由となる可能性も考えられます。
困るのは、退職届提出の打診を拒み、堂々と出勤する場合です。解雇することも考えられますが、訴訟リスクがあるわけです。かといって何もしなければ、他の従業員に不快な思いをさせることも考えられます。まずは退職勧奨を実施することになるでしょう。しかし、退職届提出打診を拒んだ者ですから、相当の条件提示がなければ応じない可能性が高いです。どうしようもない場合は、リスク覚悟で解雇するか、又は悪しき前例となること覚悟で出勤させるかという悩ましい二択になりそうです。
何故会社がこのような思いをさせられなければならないのでしょうね…。刑法犯については、私生活上の行為であっても解雇を認める法整備が必要だと考えます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|