【再雇用義務】
ご承知のとおり、満 60 歳定年を定めた場合で、本人が希望したときは、原則として満 65 歳まで再雇用する義務があります。例外として、解雇事由があるときが挙げられますが、解雇できるなら定年時に合わせる義務はなく、既に解雇していますよね。
仕事を最小限しかしない、ミスが多い、報連相しない、協調性がない、頻繁にため息、舌打ち… 程度や状況が分かりませんが、注意指導は重ねたわけです。それでも改善しないわけですから、もしかしたら解雇事由として認められる可能性もゼロではなかったかもしれません。ただ、決定的な問題点は、懲戒処分歴が無いように見受けられることです。解雇訴訟で解雇無効と判断する裁判官の常套句が、「過去に懲戒処分歴もなく」です。今後のため、次のようにご認識いただきたいと思います。
・ 「懲戒処分しない」ということは、客観的に「懲戒に相当する行為がなかったと会社が判断した」とみなされる
【再雇用の労働条件】
貴社の過去 3 人の再雇用条件は、「仕事は同じ」、「給与は 7 割」というものです。仕事が全く同じなのに給与を 7 割にして良いかという問題がありますが(同一労働同一賃金)、紙幅の関係で本稿ではこの点には触れません。労働条件には、「仕事」と「給与」の他に、「労働時間」や「休日」があります。再雇用する義務はありますが、本人の希望の通り雇用する義務はなく、合理的な範囲で会社側が労働条件を提示することは認められています。今回のケースは、このあたりで検討することも必要かと考えます。もちろん、仕事も同じ仕事では貢献できないのですから、変更すべきです。
仮に、仕事は軽易なものに変更、もともと最小限しか働かないのだから、最小限の労働日数・労働時間に変更、給与は軽易な仕事だから時間単価で 6 割あたりで考えてみます。労働日数を従来の 8 割、1 日の労働時間数を 7 割 5 分とすると、1 カ月あたり所定労働時間数は定年前の 6 割になります。そして給与が 6 割だから、60 %× 60 で月額給与は 36 %です。紛争になった際に裁判官が認めるかという不確定要素がありますが、認められる可能性は十分にあるのではないでしょうか。もし不安でしたら、36%でなく、50 %くらいになるよう調整することも考えられます。
【本人の判断】
以上の労働条件を提示する前に、まずは本人に再雇用の希望の有無を確認します。
もし本人が希望しなければ、めでたく問題解決です。再雇用を希望したときは、労働条件を提示します。本人の判断は、最終的には@拒否、A受け入れ、のいずれかになります。@拒否の場合、条件を交渉してくるか、そのまま第三者に相談して訴えてくるか、のいずれかになりそうです。Aの場合、提示した労働条件で再雇用せざるを得なくなります。
条件交渉の際に、単に労働条件だけでなく、退職を選択した場合に退職金割増しや、定年前の一定期間について他の事業所への就職活動のための特別有給休暇を付与するような条件を提示しても構いません。最終的に合意に至らない場合は、とにかく定年到達日以降は出勤させないようにする必要があります。再雇用の既成事実を作らせず、裁判になっても契約不成立を主張できるようにすることが重要です。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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