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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和5年12月号》
無断欠勤して年次有給休暇を申し出る新入社員の取扱い
  質 問

【質問者】
製造業(正社員 80 名、パート 30 名)

【質問内容】
当社は、製造業を営む株式会社です。今年 4 月、高校新卒を 2 名採用しました。非常に残念なことに、2 名とも出退勤がよろしくありません。
2 名とも遅刻が多く、5 月の連休明けには 2 名が同じ日に無断欠勤するという異常事態もありました。無断欠勤のあと普通に出勤してきたので、当然、無断欠勤が社会人として問題がある旨指導しました。すると翌日には 1 名から退職の申し出がありました。引き留めたのですが、翌日から出勤しなくなり、結局そのまま退職することになりました。残る 1 名は、退職の申出はないものの、相変わらず毎月 2 〜 3 日は遅刻が続いていました。
10 月に入り、この新入社員がまた無断欠勤をしました。こちらから電話しても出ませんし、折返しもありません。直属上司から LINE メッセージを入れても、既読スルーです。これを何度か繰り返しましたが、連絡が取れません。無断欠勤 4 日目になり、そろそろ自宅を訪問しようかと話していたところ、本人から直属上司に LINE の返信がありました。その内容は、「4 日間、休んでいる分は有給休暇にしてください。有給は 10 日あると思います。精神的に疲れているので、あと 6 日間休みます」というものでした。これを見た直属上司から、どのように返信したら良いか相談がありました。
私は、4 日連続無断欠勤したことを詫びる姿勢もなく、さらに 6 日休むと LINE で連絡してきたことが気に入りません。しかし現場の意見としては、とにかく人手が足りないので何とか出勤できる日だけでも来て欲しいというようなことを言っています。「辞められたら困る」というのが根底にあります。現時点では、@ 4 日無断欠勤分は、年次有給休暇扱いを認める、A 6 日休む件は、可能なら出勤を促す、という返信をしようという方向にまとまりつつあります。このような取扱いはできますか。

  回 答

【年次有給休暇扱い】
年次有給休暇は、本人が少なくとも事前に日にちを特定して申し出ることが原則的な取得条件です。ただ、突発的に「正当な理由」のため、当日申出(事後申出)となった場合でも、事業所の裁量で認めることが一般的です。「正当な理由」とは、一般には突発的な傷病や交通事故等であることが多いですが、親の危篤の知らせ等も考えられますし、その都度個々に判断することになります。
ここで「無断欠勤」が正当な理由に当たるかといえば、当たるわけがありません。 もっとも、年次有給休暇扱いを認めることが労基法違反等になるわけではありません。 貴社の判断で年次有給休暇扱いとすることができるかと問われれば、できるという回答になってしまいます。

【リスク】
そもそも無断欠勤は、「出勤して労務提供するという雇用契約」に違反する非違行為です。就業規則にも無断欠勤を禁じる規定があるでしょうから、懲戒事由に当たります。そのような非違行為に対して、懲戒処分の検討すらせず年次有給休暇扱いを認めることは、これが今後の「先例」となってしまう大きなリスクがあります。
高校新卒だからと甘やかすのかもしれませんが、仮に他の勤続 5 年とか 10 年の従業員が無断欠勤しても、同じ取扱いをするのでしょうか。そうしないのであれば、公平性の原則に照らして差別的取扱いとなってしまいます。結論として、既に経過した無断欠勤 4 日については、年次有給休暇扱いを認めず、きちんと欠勤控除し、さらに懲戒処分を検討するべきだと考えます。これができないのなら、全従業員に対し、今回限り異なる取扱いをし、今後は原則通り対応すると周知させて下さい。

【今後】
6 日間の年次有給休暇取得申出に対しては、業務上出勤させざるを得ない高度の事由がなければ、法律上認めざるを得ません。人手不足ということですが、慢性的な人手不足であれば、年次有給休暇の時季変更の理由として認められないとされています。ただ今回は、無断欠勤の途中でなされた取得申出という事情があります。申出を拒否して出勤を命じるのではなく、できれば出勤しないかと打診する程度なら、本人に選択の自由があることを前提に許容範囲だと考えます。
その前に、年次有給休暇の取得申出について、貴社の「所定の申出方法」は定められていませんか。もし所定の方法があるなら、その方法で申し出るように伝えることになると思います。
ところで本人は、入社半年で付与された年次有給休暇を一気に全部消化しようとしています。このまま退職を考えている可能性もありそうですね。LINE 返信では、まずは電話か面談を求める必要があると考えます。今後のことを確認しつつ、今回の対応について回答するのが良いでしょう。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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