【社会問題化した配偶者手当】
配偶者手当が問題視されるようになったのは、主に次の二つの理由からです。
@配偶者手当が普及した前提が「夫が働き、妻が専業主婦」
A一定所得を超えると支給されなくなるため、働き控えを促進させる
これらを端的に言えば、ご指摘のとおり、「昭和の遺産」、「女性の社会進出の妨げ」ですね。
日本は人口減少社会に入り、深刻な労働者不足問題を抱えています。この背景もあって、さらなる女性の社会進出が求められています。実際、昭和の頃は専業主婦も多かったのでしょうが、今は共働きの方が多くなりました。ここで上記@ですが、配偶者手当を支給する前提条件が崩れてきたわけです。共働きが増えましたが、中には「働き控え」を選択する人も少なくありません。その大きな理由が、社会保険の扶養制度と、上記Aの事業所による配偶者手当です。
【配偶者手当の状況】
厚労省はかなり前から、配偶者手当の見直しを求める通知や文書等を出してきました。「職種別民間給与実態調査」によると、平成 27 年は配偶者手当制度を有する事業所の割合は 69 %でしたが、令和 4 年には 55 %まで減少しています。
厚労省は、「配偶者手当の在り方の検討に向けて」と称する文書を公開しています。簡単にまとめると、目的は「配偶者手当の廃止」で、そのために「丁寧な労使協議と合意」を求める内容です。そして、配偶者手当の廃止に伴って、例えば子供手当を増額するなどして、総額を維持することを一つの方法として明示しています。
そして今年 5 月には、注目すべき裁判の判決が出ました。簡単に言えば、配偶者手当等を廃止し、その分として子供手当等を増額したという事案ですが、裁判所はこれを合法だと認めたのです(済生会山口総合病院事件、山口地裁令和 5.5.24 判決)。この事案では、もともと正社員だけに支給されていた手当について、非正規職員への手当を創設するなどもしています。配偶者手当から子供手当へというだけでなく、同一労働同一賃金へのシフトという要素が総合的に認められたものとなります。
【貴社の場合】
貴社の場合、全員正社員ですから、同一労働同一賃金の問題は置いておきます。配偶者手当の廃止は、確かに 5 人の方は給与減額という不利益を被ります。従って、一方的にバサッと変更するのではなく、誠実な説明と理解を求める姿勢は必要不可欠となります。その上で、最終的には検討されている内容のとおりに進めていただいて良いと考えます。可能な限り、5 人の合意を得たいですね。
ところで、月額 1 万円は、従業員にとって小さな額ではありません。激変緩和措置として、いったん月額 5,000 円に減額し、これを経て 1 年後に廃止に移行するということも考えられます。毎年の最低賃金の大幅増もあり、底上げ的に全体の昇給幅も大きくなる傾向もあります。仮に昇給時期に合わせて月額 5,000 円に減額すれば、実質的な手取り額への影響が抑えられます(昇給額が月 5,000 円以上なら、総額で減額にならずにすみます。)。1 年後も同様の流れになりますね。法的にどうかという視点は重要ですが、従業員の生活への配慮も重要です。この配慮によって、理解が得られやすくなる可能性が考えられますし、法的に認められやすくもなります。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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