そこが知りたい!労働法

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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和6年2月号》
所定時間外の「学び」の奨励
  質 問

【質問者】
製造業(正社員 70 名、パート 20 名)

【質問内容】
当社は、製造業を営む株式会社です。従業員の担当職務は、製品開発、製造作業、営業、営業事務、一般事務などで、パートは全員製造作業です。正社員については、配置転換もありますが、担当職種の異動はあまり行われず、所属部内での異動が中心です。
最近悩んでいることは、従業員に「学ぶ姿勢」が感じられないことです。同じミスを繰り返す人は、ミスしても「次、ミスしないために学ぶ」ということをしていません。管理職は、それまでやってきたやり方や考え方を繰り返しているだけで、時代が進化しても新たに何か考えようとしません。これらの例のようなことが多々重なり、当社は発展の機会を喪失しているように思うわけです。もちろん、すべての責任は、この状態のまま放置してきた私(経営者)にあります。
様々な調査によって、日本人は世界一水準で「自発的に全く学ばない」という結果が出ていることを知っています。このことから、組織的に学ばざるを得ないしくみを作る必要があると考えています。これは、当社の所定労働時間で行う学びで、業務に関連する内容です。
もう一点、所定時間外における自発的な学びを求めたいと考えています。学びの内容は自由として、様々な分野の知識等を身につけることで、業務においても異なる視点等を持って欲しく、また、人間として成長して欲しいのです。ただ、所定時間外のことですし、強制はできません。何か良い方法はないでしょうか。

  回 答

【労働法の障壁】
「所定時間外」に「自発的」という「学び」は、労働時間に該当しないことが前提ですね。厚労省作成のリーフレットに、「労働時間に該当しない例」として、次のように示されています。
@終業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取扱いもしない勉強会。
A労働者が、会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練。
B会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習。なお、英会話は業務とは関連性がない。
ポイントとなる部分に、下線を付けてみました。強制しない、不利益取扱いしない、指揮命令をしない等が労働時間に該当しないポイントです。また、会社が弁当・設備・講習会等を提供している事項につていは、波線としました。会社が積極的な支援や何らかの提供をすることすら、判断基準の一部となる可能性があることが示唆されています。

【自ら学ぶきっかけ】
「自発的な学び」は、他から強制できません。しかし、従業員の自由に任せれば、おそらく平均的な日本人と同様に、自ら学ぼうとはしないでしょう。何らかのきっかけが欲しい、という話しになります。なかなか「良い方法」が難しいです。
一般論で恐縮ですが、資格取得奨励制度や学習費用の補助制度等を設ける例があります。今回の貴社の場合、学ぶこと自体を強制しない以上、自発的に学ぶ従業員への支援の在り方を検討することが現実的でしょうね。

【支援の在り方】
貴社の場合、「学びの内容は自由」ですが、支援の対象範囲はある程度定めておく方が良いでしょう。選択肢が示されることから、「何でも自由」と言われるより取り組みやすくなる可能性も考えられます。
支援の内容は、法規制があるわけでもなく、かなり自由に決めることができます。
しかし、最初から本人が「タダ」で受講できるような支援の場合、一般論ではありますが、学習に身が入らなかったりするものです。あらかじめ支援する場合でも、半額程度までが良いでしょう。全額支援する場合も、まずは本人に一定の負担をさせ、修了後とか何らかの要件達成後とかに、追加支援するような流れが良いと考えます。
資格取得奨励の場合、取得一時金や資格手当で対応する例が多いです。
これらの支援制度で、頻繁に問題になるのが支援直後の退職です。学習スキルや資格は本人専属なので、事業所が費用負担する意味が全くなくなります。一度支給したものを「返せ」というのもなかなか難しいです。この観点だけで言えば、一時金より月々支給する方が妥当だとなります。しかし、毎月の額が目立たないためインパクトが小さくなるデメリットもあって悩ましいです。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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