そこが知りたい!労働法

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和6年8月号》
月給者の欠勤控除
  質 問

【質問者】
製造業(正社員 60 名、パート 30 名)

【質問内容】
当社は、製造業を営む株式会社です。季節的な繁閑が多少あるため、1 年単位の変形労働時間制を採用しています。そのため所定労働日数は、年によって多少前後しますが、多い月は 24 日・少ない月は 16 日くらいになっています。正社員は月給制で、欠勤したときは欠勤日数分を給与から控除しています。1 日分の単価は、年間平均の 1カ月あたり所定労働日数(21 日)としています。給与計算期間は、毎月末日締切です。なお、1 カ月間で 1 日も出勤しなかったときは、欠勤控除のような考え方をせず機械的に 0 円としています。
ある従業員が、私傷病のため入院していましたが、退院してほどなく出勤することになりました。当社は、当月は休んで翌月 1 日から出勤すれば良いと推奨しましたが、本人がずっとご迷惑を掛けているからと月末近くから職場復帰し、その月は 2 日出勤しました。さらに翌月も 2 日出勤したのですが、やはりちょっときついということでした。そこで病院に行ってもらったところ、結果的に医師から自宅安静と診断されてしまいました。
その後、職場復帰した月(A 月)とその翌月(B 月)の給与計算した結果、疑問が生じました。A 月も B 月も、出勤した日数は同じ 2 日間です。異なるのはそれぞれの所定労働日数で、A 月は 22 日、B 月は 18 日でした。本人の給与は月額 25 万 2000円なので、日額 1 万 2000 円(25.2 万÷ 21 日)です。
A 月は 20 日欠勤なので 24 万円(1.2 万× 20 日)を控除して「総支給額 1 万 2000 円」、B 月は 16 日欠勤なので 19.2 万円(1.2 万円× 16 日)を控除して「総支給額 6 万円」となりました。A 月も B 月も同じ 2 日間出勤なのに、総支給額は 1.2 万円と 6 万円という 5 倍も異なる格差が生じたのです。まだ B 月給与支払日前ですから、まずは振込手続をする前に正す必要があります。
冷静に考えると、支払済みの A 月も 2 日出勤に対して 1.2 万円だけでした。1 日あたり 6000 円ということなので、最低賃金を下回っていたようです。本人からは何もクレーム等はなかったのですが、B 月給与を振り込めば、当社に対して不信感を抱くことは間違いありません。当社は、長年この方法で給与計算してきましたが、悲しいことにずっと誤っていたようです。正しい計算方法を教えて下さい。

  回 答

【労基法上の規制はない】
労働基準法は、割増賃金の算定方法については厳格に規定していますが、欠勤控除については特に規定していません。日割計算において、一般に貴社のように「年間平均の 1 カ月あたり所定労働日数」を採用する事業所が圧倒的に多いのですが、これは割増賃金算定方法に準じた取扱いですし、妥当です。即ち、貴社の計算方法が労働基準法違反というわけでもありませんし、これに代わる「正しい方法」が存在するわけでもありません。しかし…。

【欠勤控除と出勤日数】
貴社の本件 A 月と B 月が、仮に出勤 1 日ずつだったらどうなったでしょうか。貴社の計算方法では、A 月は 1 日出勤したのに総支給 0 円、B 月は 1 日しか出勤していないのに総支給 4 万 8000 円になってしまいます。どう考えてもおかしいですよね。特に A月は、最低賃金を下回るどころか、働いた日があるのに給与ゼロですから、大問題になりそうです。
問題は、「欠勤控除」として控除することだけに着目し、出勤日数を考慮しない運用をしていることにあります。しかし貴社は、出勤 0 日の場合だけは、出勤日数を考慮して所定労働日数と無関係に総支給 0 円としています。これでいいのです。ここに、運用改善の鍵がありそうです。

【運用ルールを定める】
毎月の所定労働日数が異なるのに、何日欠勤したか「だけ」で給与計算することから、問題が生じています。「何日出勤したか」という部分も考慮できる制度とすることで、運用を改善できます。
たとえば、1 カ月の出勤日数が 10 日以下のときは「欠勤控除」という考え方をせず、「出勤日の給与を支給」という取扱いをすることが考えられます。こうすれば、貴社の A 月・B 月のいずれであっても、2 日出勤だから 2 日分支給で各 2 万 4000 円と同額になります。「10 日以下」を例としたのは、貴社の年間平均 1 カ月あたり所定労働日数である 21 日の半分くらいを意識してそうしたものです。別に他の日数としても構いません。大切なことは、定めた日数で例外なく運用することです。
今回は、B 月 2.4 万円に加えて、1.2 万円払い済みの A 月の差額 1.2 万円を前月支給漏れ分として上乗せ支給されるのが良いでしょう。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
                     前へ<<               >>次へ
>>そこが知りたい!労働法リストに戻る