【給与課税】
奨学金とは、端的に言えば「学費ローン」であり、「借金」です。借金返済を事業所が肩代わりしても、それは本人に対する給与支給であり、当然に給与課税されます。
しかし、一定要件を満たせば「学資に充てるため給付される金品」として取り扱われ、非課税となります。
国税庁ホームページにて要件を確認してみます。まず念のため、通常の新卒採用においては関係ないかもしれませんが、「役員、役員の親族等」については問答無用で課税対象です。一般の採用における要件は、貴社が聞かれているとおりです。「従業員に支給することなく、会社から直接奨学金機構に返済」が要件です。
一応気にかけておきたい要件として、「通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除く」というものがあります。即ち、通常の給与の一部を会社が直接送金して返還しても非課税にはできないということです。あくまでも、通常の給与とは「別の負担」としての「学資に充てるため給付される金品」でなければならないのです。
【社会保険料】
令和5 年6 月27 日付の厚労省内の事務連絡に、次のように示されています(要約)。
@給与とは別に事業主が直接返還金を送金する場合は、返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかであり、社会保険料「対象外」
A事業主が奨学金の返還金を従業員に支給する場合は、社会保険料「対象」
B事業主が給与に代えて直接返還金を送金する場合は、社会保険料「対象」
所得税と同様の要件ですが、ポイントが分かりやすいですね。端的にまとめると、
「給与と別に会社が負担して会社が直接返還金を送金」ということです。いったん従業員に支給して従業員が送金してもダメだし、給与の一部を会社が直接送金してもダメということです。
【公平性担保のための手当支給】
お考えの「手当支給」について、小職も感情的には公平性担保の観点から賛成したいところです。しかし残念ながら、結論として手当支給すると非課税措置等を受けることができなくなります。
「通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除く」という要件を紹介しました。奨学金代理返還でない従業員に対しては、手当を支給します。代理返還の従業員には手当を支給せず、代わりに奨学金返還してあげます。会社の負担額という点では、どちらだろうと同じ額を支給するわけです。税務署や年金機構からみても、そのようにしか見えません。「通常の給与とは別に支給」とは言い難いため、給与課税対象・社会保険料対象となるでしょう。
非課税メリットを狙う代理返還制度の導入は、残念ながら「公平性」という視点では成立しません。大雑把ですが、「不公平だけど、採用力強化のため導入する」と「公平性を重視して導入しない」という究極の二択を比較衡量し、貴社の経営判断で結論を出していただくしかないようです。慎重にご検討ください。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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