【所在不明株式の売却制度】
かつて、株式会社を設立するのに最低でも7人の出資者(発起人)が必要な時代がありました。
実質は1人で会社を設立しようとしても、名目上、知人等にも出資をしてもらい会社を設立することがあったようです。
そのような場合、設立当初の株主が死亡してそのままになっていたり、連絡すら取れなくなってしまったというケースをよく耳にします。
会社は株主名簿を作成したり、株主総会を招集するために各株主に招集通知を発送するなど、様々な株主管理事務手続きがあり、所在不明株主の存在は会社にとって早期に解決しておきたい問題です。
こうした株主管理事務手続きを合理化する観点から、会社が当該所在不明株式を競売または売却することができる制度があります。
この制度は、他人の財産である株式を勝手に処分できてしまうことから、2つの要件をクリアしなければなりません。
【要件】
(1)会社が株主に対してする通知または催告が5年以上継続して到達しない場合で、かつ、
(2)その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合です。
これらの要件はどちらか1つではなく、2つとも満たす必要があります。
(1)の要件につき、これまで会社が当該株主の所在不明を理由として何の通知等もしてこなかったような場合には該当しません。
つまり、所在不明であっても株主名簿上の住所に通知または催告を継続して5年間行っていなかった場合は、当該株式を処分することは出来ませんので、一刻も早く通知・催告を開始することが必要となります。
(2)の要件については、そもそも5年間継続して配当をしている会社なのかどうかが問題となります。
このご時世、中小企業で配当をしっかりやっている会社はそれ程ありません。
5年間配当を受領しなかった場合の意味は、5年間無配当であった場合を含むものと解されています。
【競売・売却手続き】
所在不明株主の所有株式処分は、競売によるのが原則です。
ただし、当該株式に市場価格のある場合は、市場価格として法務省令で定める方法により算定される額で売却し、市場価格のない株式については、裁判所の許可を得て、競売以外の方法により売却することができます。
また、裁判所の許可を得て売却する場合には、会社が当該株式を買い取ることも可能です。
自己株式の取得には、原則として株主総会の決議が必要になりますが、この場合は特例として取締役会で(1)買い取る株式の数(2)株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭を決議すれば足ります。
さらに、株主の氏名や住所、株式の種類や数、株券を発行している場合には株券番号、売却に異議があれば3ヶ月以上の一定期間内に異議を申し出ることを公告し、かつ当該株主に対しても株主名簿に記載された住所等に宛てて通知しなければなりません。
この3ヶ月の異議申立期間内に異議を申し出る者がいなかった場合には、その株式を競売または売却することができます。
【ご質問への回答】
会社として所在不明株式を買い受けるためには、上記(1)(2)の要件を満たした上で、競売または裁判所の許可を得て任意に売却し、会社が自ら買い取ることは可能です。ただし、会社が買い取る場合には、その対価は分配可能額の範囲内を超えることが出来ませんので注意が必要です。
回答者 司法書士 安藤 功
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