司法書士のつぶやき

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福岡!企業!元気!のための知っておきたい会社の法律知識 《平成24年4月号》
取締役の退任登記請求について
  質 問

【質問者】
 株式会社(元)取締役A

【質問内容】
 私は、株式会社○△の取締役として設立当初から友人でもある代表取締役Bと一緒に頑張ってきましたが、不況のせいもあり会社の業績はここ数年悪化する一方です。私自身、年齢が60を過ぎ、体力とともに仕事への意気込みがだんだんと薄れていき、ましてやこの不況ですので、社長には申し訳ないと思いながらも、先日取締役を辞任したく辞任届を提出いたしました。ところが、代表取締役Bからは私の辞任を強く引き止められ、登記上も辞任による退任登記をしてくれません。何度も辞任の登記をするように要求しましたが、口頭では聞いてくれないため内容証明郵便で退任登記をするよう促しましたが、動いてくれそうな気配がありません。なぜ、社長が私の退任登記をしてくれないのかは分かりませんが、このまま登記簿上に私の名前が取締役として登記されていることで、不利益があるのではないかと心配しています。任期満了までまだ1年半ほどありますし、それまで我慢しなければいけないのでしょうか。何か良い方法があれば教えてください。

  回 答

【登記手続き】
 株式会社の取締役が辞任や任期満了で退任した場合、2週間以内にその会社の本店所在地を管轄する法務局で取締役変更の登記をしなければいけません。この登記は、会社の代表取締役が申請します。手続きを長い間そのままにしておくと、会社としては過料に処せられることがあります。また、退任した取締役が登記簿上そのままになっていると、登記簿を信頼して、その取締役が退任したことを知らずに取引関係に入ってきた第三者に対しては、自分が既に退任していることを主張することが出来ません。既に辞任しているにもかかわらず、後日紛争に巻き込まれ、取締役の責任を追求されてしまう可能性もありますので、会社が退任の登記申請をしてくれないのであれば、積極的に会社に当該登記をするよう要請する必要がでてきます。

【訴訟による方法】
 会社が取締役退任の変更登記を申請しない場合には、その取締役は会社を相手取って訴訟(取締役退任登記手続請求訴訟)を提起することが出来ます。この訴訟が認容されると、被告株式会社の登記申請意思が擬制されることになり、原告である退任取締役が確定判決正本を添付の上で、登記を申請することが可能となります。本来であれば、会社の印鑑(実印)の押印がなければ出来ない登記申請も、判決による場合であれば、会社の協力なくしてて続きできることになります。

【取締役の員数との関係】
 株式会社において、取締役の最低員数は取締役会を設置しているかどうかで異なります。取締役会を設置しているのであれば最低3名の取締役が必要ですが、取締役会を設置していない会社ですと最低1名いれば足ります。法律上は上記のとおりですが、定款によって取締役の員数を「最低4名以上」としたり「6名以内」とすることも可能です。取締役が辞任することによって会社法もしくは定款で定められた最低員数を下回ってしまうような場合には、新たに取締役が就任するまでは、辞任による変更登記をすることができず、依然として取締役としての権利や義務を有するものとして取り扱われます。

【ご質問への回答】

 本件の場合、株式会社○△が取締役退任の登記手続きをしてくれないのであれば、取締役退任登記手続訴訟を提起し、認容判決を得て、自ら取締役退任登記手続きをすることが可能です。もともと、取締役2名の会社であれば、取締役会は設置されてませんので、定款の最低人数の定めがあるかどうかの確認はしておく必要があります。もし、定款で取締役の最低人数が2名以上となっているのであれば、後任の取締役の就任登記をするのでなければ、取締役Aの退任登記が出来ません。

回答者  司法書士 安藤 功
会社設立・役員変更・増資・組織再編・事業承継等に関する各種登記手続き
安藤功司法書士事務所
司法書士 安藤 功
〒810-0042 福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル5階
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