【相続等における売渡請求】
株式には譲渡制限規定を設けることができます。これは、株主が株式の譲渡をすることで会社にとって好ましくない株主が出現することを防ぐために、株式の譲渡については会社の承認を必要とする定めのことです。ここで言う「譲渡」には「相続」や「合併」は含まれていません。よって、株主が死亡して相続が発生した場合、譲渡制限規定があっても会社は相続による移転を制限することができず、会社にとって好ましくない相続人が株主となることがあるのです。
会社法では、定款に「相続や合併等により株式を取得した者に対し、会社がその株式の売渡を請求することができる」旨の内容を定めることで、会社にとって好ましくない者が株式を相続することを回避するとともに、株式の分散を防止することが可能となります。なお、これを定款に定めるためには、定款変更決議として株主総会の特別決議(総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の2/3以上の賛成)が必要です。
【売渡請求手続き】
会社の定款に上記の定めがあれば、会社は相続人に株式を売り渡すよう一方的に請求することができます。売渡を請求するためには、株主総会において特別決議(上記参照)を経る必要があります。ここで注意しなければならないのは、売渡請求の対象となっている株式の相続人は、そもそもこの株主総会において議決権を行使することができません。つまり、乙が死亡した場合の例で考えると、乙の相続人以外の株主(合計90株)をベースに決議要件を検討することになります。
この請求は、相続の日から1年以内に行使する必要があり、この期間を過ぎると売渡しを請求することができなくなります。また、売渡請求があった場合の売買価格は、会社と当該相続人との協議により決めることとなりますが、万が一協議が調わない場合は、売渡しの請求の日から20日以内に限り裁判所への価格決定の申立てをすることが可能です。
また、この規定があっても、会社の剰余金分配可能額を超える買取はできませんので注意が必要です。
【ご質問への回答】
相続等における売渡請求を定款に入れておくのは一つの方法ではありますが、この規定を入れてしまったがために、貴社の大株主である社長に相続が発生した場合などには、売渡請求の際に社長の相続人が議決権を行使できない結果、少数株主に会社を乗っ取られてしまう危険性もあります。将来起こりうるリスクを十分に検討したうえで、この規定を導入するかどうかを決めるべきでしょう。
回答者 司法書士 安藤 功
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