みなさん、こんにちは。司法書士の安藤です。
前回は、種類株式についてのうち、株式の譲渡制限に関する種類株式について説明させていただきました。
今回は、取得請求権付種類株式について説明をさせていただきます。
取得請求権付株式とは、株主が会社に対して自分の株式を取得するよう請求できる株式のことを言います。これは、次回予定している取得条項付種類株式と比較して、株主側に選択権があることに大きな意義があります。また、株主が自分に都合の良い時期を見て、請求することができますので、その点においても、メリットがあると言えます。
会社に株式を売り渡す際の対価としては、現金の他にも、自分が持っている他の株式、社債、新株予約権など、定款において様々な定めが可能ですが、対価である財産(発行会社の株式を除く)の帳簿価額が当該請求の日における分配可能額を超えているときは、定款の定めいかんにかかわらず、取得請求権は行使できないとの財源規制もありますので注意が必要です。
種類株式発行会社において取得請求権付株式を発行する場合には、
(1)株主が当該会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨
(2)当該会社が株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して交付する対価の内容・数額等又はその算定方法
(3)株主が会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間を定める必要があります。
【取得価額の修正】
ここからは、少し難しい話になりますが、取得請求権付種類株式を発行する場合、取得価額の「修正」を規定することがあります。取得価額の「修正」とは、一般には、優先株式(2月号参照)の発行後に取得価額が普通株式の価格等を基準として変更されることを言います。修正する場合には、取得価額の上限・下限を設けることが多いのですが、特に下限取得価額は、一般株主の利益を守る観点や、増資における第三者割当てで希薄化率を一定のレベルに抑える観点、また発行可能種類株式総数に関する規制を遵守する観点からも重要ですので、実務的にも、上場会社が発行する優先株式について取得価額の修正条項が規定されるものは少なくありません。
【取得価額の調整(希薄化防止条項)】
先ほどの「修正」とは別に取得価額の「調整」というものがあります。この「調整」とは、一般には、発行会社が、普通株式の交付を受けることができる証券を発行した後に、株式の分割、時価を下回る価額での株式発行等、当該証券の経済的価値を毀損するおそれのある企業行動を行う場合に、当該経済的価値を保護するために取得価額等の変更を行うことを言います。調整条項は、希薄化防止条項とも呼ばれています。
調整条項は、修正条項とは異なり、取得請求権付株式の対価を株式とする場合には、その保有者の経済的利益の保護のため実務上一般的に要求されているものですが、どのような場面において調整を行うかは必ずしも明確ではないため、その内容は発行ごとに検討を行う必要があります。
【活用場面】
実務上は、(a)普通株式を対価とする取得請求権と、(b)現金を対価とする取得請求権が比較的よく用いられています。
(a)会社の業績が不安定な時期には優先株式を保有することで配当を優先的に受け、会社の業績が好調になった時点で(配当が頭打ちとなった)優先株式から普通株式に転換し、より有利な配当を受けることができる種類株式を設計することが考えられます。また、無議決権株式に取得請求権を付しておき、一定の事由が発生した場合には普通株式に転換して会社に対する支配力を強めることができる仕組みとして利用されることもあります。
(b)投資者のExit方法を確保するため、換価が容易ではない非上場の種類株式に現金対価の取得請求権を付すことがあります。
回答者 司法書士 安藤 功
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