引き続き,重加算税について取り上げます。今回は,重加算税に関する裁決例の一部をご紹介します。
〜国税不服審判所ホームページより〜
T 請求人の従業員の行った不正経理行為は,請求人の行為と同一視されるとして,重加算税の賦課決定処分を認容した事例 平成17年6月29日裁決
《事案の概要》
本件は,○○の卸売業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)の従業員が行った不正経理行為について,請求人の行為と同一視できるか否かを主な争点とする事案である。
《裁決要旨》
請求人は,本件不正経理行為については,[1]従業員が自己の窃盗又は横領行為の発覚を防止するために行った不正行為であること,[2]請求人が通常の調査をしても発見できない方法で本件売上等圧縮行為が行われ,また,記帳や現金管理を任せ切りにした事実もないこと,[3]請求人の取締役が従業員に対して本件棚卸圧縮行為を指示した事実はないことから,請求人に結果責任を課すべきではなく,課税主体である請求人の隠ぺい又は仮装行為に該当しない旨主張する。
しかしながら,重加算税を課すためには,納税者において,過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではないから,隠ぺい又は仮装の行為は,納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく,従業員を自己の手足として経済活動を行っている納税者においては,隠ぺい又は仮装行為が代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても,その従業員の行為を納税者の行為と同一視することが相当である場合には,法人自身が当該行為を行ったものとして重加算税を賦課することができるものと解するのが相当である。そして,本件においては,[1]従業員は請求人の経理事務を担う重要な地位にいたこと,[2]不正経理行為は請求人の課税申告に直接反映していること,[3]不正経理行為は長期に及び,現金出納帳などの確認をすれば容易に把握できたと認められるところ,[4]請求人はそれらの確認を行っていないことを総合勘案すれば,本件不正行為は請求人の行為と同一視すべきと認められるから,本件重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
U 使用人の詐取行為における隠ぺい,仮装行為について,請求人自身の行為と同視することはできないとした事例 平成23年7月6日裁決
《事案の概要》
本件は,審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した○○工場の消耗品費について,原処分庁が,損金算入を否認するとともに,請求人の使用人が詐取した金員の損金算入と当該使用人の詐取した金員に係る損害賠償請求権の額を益金の額に算入する法人税の更正処分等をしたのに対し,請求人が,当該使用人のした架空取引は、同人が請求人から金員を詐取する目的で行った取引であり,法人税基本通達2−1−43《損害賠償金等の帰属の時期》に定められている他の者によって行われたものであるから,損害賠償請求権の額の益金算入時期は実際に支払を受けた日であるなどとして,当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。
《裁決要旨》
原処分庁は,請求人の使用人が行った詐取行為における隠ぺい,仮装行為については,@当該使用人は勤務する工場の所属課において仕入先から発行される納品伝票の事務処理を事実上一任され,その事務処理をチェックする者が他におらず,当該使用人の指示に基づき仕入先から発行された虚偽の納品伝票の処理が請求人の会計処理として反映される状況にあったこと,A当該工場において,取引先から取引実体のない納品伝票を発行させるなど不適切な経理処理が慣行的に行われており,当該使用人による事務処理を請求人自身による処理としてみなさざるを得ない状況にあったものといえることから,当該使用人の隠ぺい,仮装行為は請求人の隠ぺい,仮装行為と同視することができる旨主張する。
しかしながら、@当該使用人は,当該工場の所属課に配属されて以後,退社するまで同課において職制上の重要な地位に従事したことがなかったこと及び請求人の経理帳簿の作成等に携わる職務に従事したこともなかったこと等から単に資材の調達業務を分担する一使用人であったと認められること,A当該詐取行為は,当該使用人の私的費用を請求人から詐取するために同人が独断で取引先に依頼して行ったものであることを総合考慮すると,請求人が取引内容の管理を怠り,請求人から隠ぺい仮装するための当該使用人の仮装行為を発見できなかったことをもって,仮装行為を請求人自身の行為と同視することは相当ではない。
次号へ続く
回答者 税理士 鵜池 隆充
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