前回、第2回目の散歩みちでは、「企業会計って何?」ということで、以下のことを述べました。
・企業会計は、利用目的に応じて「財務会計」と「管理会計」に大きく分けることができます。
・企業会計は、「企業活動」を「記録」し、「集計・処理」し、「報告」するプロセスです。
・企業の経営を健全な発展へと導くことが、企業会計の共通の目的です。
今回は、「財務会計」の分野を取り上げます。前回も申し上げましたが、「財務会計」は、企業の経営成績や財務状況を外部に報告することによって、利害関係を調整するための会計です。業績報告をどのように経営に活かすのかについて、触れて行きたいと思います。
粉飾・脱税(経営の失敗)
上場企業の粉飾決算や多額の申告漏れや脱税といった新聞記事も後を絶ちません。私自身も仕事を通して、倒産危機の会社にお邪魔しますが、訪問の初期段階で、まず間違いなく多額の粉飾が発見されます。
結果論だから仕方がないのですが、どうしてそうなるまで放置していたのだろう?と、つくづく感じてしまいます。私は、新聞の一読者であったり、外部のアドバイザーという立場であったりしますので、比較的客観的に状況を見ているのですが、これが、当事会社の株主だったら、取引銀行だったら、従業員だったら、と思うとそうはゆかないのであろうと思います。
粉飾・脱税事件というのは、財務会計の活用を誤ったことにより生じる経営上の失敗だと思います。
「財務会計」の前提
「財務会計」には、大きく3つの分野があります。
分 野 | 報 告 対 象 | 目 的 |
「会社法会計」 | 株主・債権者 | 経営責任としての業績報告等 |
「税法会計」 | 税務当局 | 適正な課税所得・納税額の申告 |
「金商法会計」 | 一般投資家 | 投資判断を行うための情報開示(上場企業等) |
また、「財務会計」は、どの分野においても、公正なルールに基づいて決算開示を行うという前提があります。
「会社法会計」、「金商法会計」は、特定あるいは不特定の多数の方が、誰でも正しく企業情報を理解する必要がありますので、一定のルールを置かなければならないことは理解しやすいと思います。
一方、法人税の納税額はすべて税法の規定に基づいて計算されますが、公正な会計基準により計算された決算利益をベースに納税額を計算する方式が取られています(確定決算主義)。したがって、当然のことではありますが、過去の粉飾を当期の決算で元に戻すような処理は認められていません。
「会社法会計」と経営
株主は、会社の決算に基づき配当金を得ます。また、会社の経営を任せる経営者を選任・解任する権限を持っており、毎年、経営者は株主に決算報告を行うことが法定されています。
また、取引銀行は、一般的に、会社から提示される決算書をベースに融資判断を行い、毎年決算書の提出を求め融資の継続について検討をします。
業績が悪ければ、株主から解任される可能性もあり、融資条件も悪くなって行くことと思います。従って、会社法会計の世界では、「損失を出したくない」という欲求が経営者に生じます。
経営上重要な点は、
・会計ルールの選択肢を把握し、経営に有利となる方法を選択すること
・決算予想を行い、業績見通しに応じて設備投資の時期を変更や、コスト予算の修正を行うこと
・著しい業績悪化が見込める場合は、事業自体の見直しや人件費のカットなど、抜本的な経営改革を検討するとともに、メインバンクとは十分に業績改善に向けての説明を尽くすことといったことが挙げられると思います。
また、会社法会計に派生する事項になりますが、中小企業の実情に合わせた会計ルールとして「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」が公表されています。中小会計要綱に従った決算を行っている企業に対して、低利融資や保証料の減額などの融資制度も設けられていますので、財務戦略として活用する方法もあります。
(参照サイト:http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/index.htm)
「税法会計」と経営
「税法会計」の分野では、「何はともあれ節税したい。」というのが、経営者に共通する思いではないでしょうか。言い換えれば、「税金コスト」をいかに抑えるかというコスト戦略ということです。
1.経営者として、「考え違いをしてはいけないこと」
・法人税・住民税は、あくまで利益(課税所得)に比例する税金であること
・決算賞与等、キャッシュを使う税金対策では、お金は残らないこと
・追徴税の税率は、恐ろしく高いこと
以上の3点を考え違いして経営判断をした場合は、残念ですが、会社は損をする可能性が高いと思います。
2.経営者として、「理解しておくべきこと」
・事実をどう判断するかにより税務処理や税務調査結果が異なること
・同じ事実でも、複数の税務処理の方法があり、有利・不利があること
・節税と課税繰延べは、意味が異なること
税務調査の際、調査官とのやり取りで重要となるのは、事実認定そのものです。例えば、「会社としては退職OBが重要顧客との関係を維持しているので、会社には滅多と出てこないものの顧問料を払っている。」ようなケースで、それを示す資料がなかったため調査官から寄付金だと言われることがあります。顧問契約を締結する際の稟議書や会社訪問時の訪問記録、重要顧客への対応記録があったらそこまで言われなかったかも知れません。
3点目ですが、例えば、「中古の車両を買えば節税になる」という話があります。これは、新車より減価償却の年数が短いため、購入当初の落とせるコストが増えるという現象ですが、償却年数が短い分、償却が終わった後の税金は当然高くなります。このようなことを「課税繰延べ」といいます。長期的に考えると税金コストは変わりませんので、正しい理解の上で経営判断を行う必要があります。
3.経営者として、「判断すべきこと」
経営者自身が、税法の細かいルールをすべて把握し、適確な経営判断を行ってゆくことは、実務的には難しい問題だと思います。そうしますと、「誰にその実務を任せるのか。」を経営者は判断しなければなりません。
以下に係るコストとその発生するリスクを踏まえて、総合的に判断してゆくことが重要だと思います。
・税金コスト(判断を誤ると高い)
・経理担当者(能力、採用コスト)
・会計システム(能力、コスト)
・税理士(実務能力、相性、コスト)
その合計としての費用がいかに安く収まるのかということが、経営として最も重要な税務会計戦略だと思います。
ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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