こんにちは。年末は衆議院選挙の結果、民主党政権から自公連立政権へ移り変わりました。今月には「日本経済再生に向けた緊急経済対策」が公表され、市場でもにわかに期待感が膨らんでいるようです。一方、中長期的視点で見ると、国家財政の赤字解消に向けては程遠く、少子高齢化社会の現実化、社会保障費と税負担の増加が待ったなしの状況で、政府はどのような政策で国民にアピールをしてゆくのか、また、私自身も一国民、一事業主としてどのように対処してゆくべきか、と、思いふけるところです。
企業経営の立場からは、この政府・国会と国民との関係を企業と顧客の関係に置き換えて考えてみると面白いかもしれません。さて、第6回の散歩みちに入ります。
【コスト構造の理解】
皆様ご承知のことではありますが、「売上」から「コスト」を差し引いた残りが企業の「利益」となります。企業である以上、「利益」を計上しなければ事業の継続はできません。
つまり、企業経営は、「売上」と「コスト」の双方の管理があいまって継続・発展してゆくものといえます。
昨今の不況下においては、売上の低迷に伴い、大幅なコスト削減を強いられる企業も少なくないことでしょう。しかしながら、正しいコスト構造を理解しないままに、決算書の数字を頼りに、人件費のカットや固定費のカットを繰り返すあまり、事業基盤そのものを弱体化させているようなケースがあり得るように思います。
そこで、基本的なコスト構造について、最初に触れたいと思います。
コストには、「財務会計用のコスト」と「管理会計用のコスト」と2つの視点があります。
「財務会計用のコスト」は、いわば決算書用のコストで経理的な話になります。財務会計用のコストは、経営成績の結果を利害関係者が誰でも理解できることを目的としているため、売上原価、販売費及び一般管理費といった計上区分と費目が法令規則で、形式的に定められており、企業活動を分析や経営上の意思決定を目的としたものではありません。
これに対し「管理会計用のコスト」の視点では、大きく企業活動が、どのようなコストから成り立っているのかを分析し、将来の経営意思決定に役立ててゆきます。
活 動 費 | 費 用 |
仕入・製造 | 「材料費・商品仕入」、「製造労務費」、「製造経費」 |
営業・販売 | 「販売人件費」、「販売活動費」 |
一般管理 | 「一般人件費」、「一般経費」 |
企業の活動区分ごとに、コストが発生していることを理解し、管理できれば、何処にどのような資源をどの程度投入すべきかという経営の視点と会計が連動することになります。
次に、財務会計のルールにとらわれずに、売上高の増減に変動して発生する「変動費」と、変動しない「固定費」に費目を区分します。
「変動費」:材料費、商品仕入、販売促進費、荷造運賃等
「固定費」:人件費、支払家賃、減価償却費、本社経費等
「管理会計用のコスト」の損益計算
売 上 高
変 動 費
限界利益(付加価値)
固 定 費
営 業 利益
管理会計用のコストでは、上記のように企業の限界利益(付加価値)を計算します。単純な結果の利益という視点ではなく、企業のその商品・サービスにどれだけの付加価値を付けられるかを計るということです。
例えば、百貨店の衣料品とファストブランドの衣料品を比較してみましょう。
【百貨店は】
- 一流ブランドメーカーの製品を販社(卸業者)を通して仕入れます。メーカー、販社がそれぞれマージンを取りますので、百貨店の仕入は高くなります。
- 顧客に対して高級感をアピールすることによって付加価値を付け、高額な商品を販売します。
- 高級感をアピールするため、一等地に店舗を構え、内装や販売員にもコストをかけます。
【ファストブランドは】
- 直接製造をしたり、海外工場から直接輸入したりすることで、仕入は安くなります。
- 顧客に対して安さ、オシャレ、品質をアピールすることによって付加価値を付け、安価な商品を販売します。
- 安さ、オシャレ、品質をアピールするため、店舗、内装、販売員にはコストをかけず、製造ノウハウ、宣伝広告にコストをかけます。
近年は、百貨店苦戦、ファストブランド好調と言われています。経済環境、市場規模や顧客志向の変化に対応して付加価値戦略を立てられたかどうか、その戦略をコスト戦略に反映できたかなど、管理会計の視点からも、上記のケースは大変参考となる事例です。
最近では、写真フィルムのメーカーが化粧品会社として成功を収めている話も有名です。きっと、その企業の管理会計の担当者は面白い仕事をされていることでしょう。
【コスト管理の視点】
また、コスト管理の視点として忘れてはならないことをいくつか紹介します。
ひとつは、「その支出(削減)の効果があるのか?」という視点です。
第4回でも述べましたが、「その交際費は、売上を産んでいますか?」といった視点です。
業績悪化の時期に、従業員の給料をやみくもに一律カットしたケースを考えてみましょう。役員報酬には手を付けなかったので従業員の士気が一律に低下した。なくてはならない熟練工や営業担当者が、良い条件のところへ転職してしまった。このようなことでは、企業は、カットしたコストよりも多くの損失を被ることになりかねません。
また、リストラをする際に、コストの増額を一切認めないとするケースが多々見られますが、これも間違いでしょう。そこにコストを投じることで売上の増加につながる、あるいは更なるコスト削減につながるということであれば、きちっと根拠を付けて、社内はもちろん、銀行等へも説明を尽くすべきと思います。
もう1点の視点は、「キャッシュ・フローは回っていますか?」という視点です。
これは逆に利益の出ている企業に言えることかもしれません。
例えば、在庫は売れるまで損益に出てきません。売れない在庫を多く抱え過ぎると損失はでないが資金だけ減ってゆくことにつながります。
販売管理(与信管理)でも同じことが言えますね。回収の遅い得意先に多額の売上をすれば、利益は出ているけど資金は入らないこととなります。
今回は、コスト構造とコスト管理の視点について説明いたしました。好景気が望めない昨今では、コスト管理は利益管理そのものといえます。また、利益だけを追求するのではなくキャッシュ・フローにも目を配ることが重要となります。次回より、各論に入りたいと思います。
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なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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