本稿が出るころは、桜のシーズンも終盤を迎えているのでしょうか。この時期になりますと、2月・3月決算の会社では、決算対応ということでお忙しい時期をお過ごしのことと思います。
さて、今回の散歩みちは、「キャッシュ・フロー」について触れてみたいと思います。
【損益とキャッシュ・フロー】
会社の事業継続には、2つの必要条件があります。それは、「利益」を計上することと「キャッシュ・フロー(資金繰り)」を維持することです。
【(黒字なのに・・・)】
毎年100の利益を計上している会社があるとします。一方でこの会社は、売掛金の回収が遅れていたり、不良在庫が発生したりで、資産が毎年膨れ上がっているとします。
社長は言います。
「毎年、利益が出ているから銀行がいくらでも借りてくれと頼んでくるんだ!」
数字に落とし込んでみましょう。
期別 | 1期 | 2期 | 3期 | 合計 |
利益 | 100 | 100 | 100 | 300 |
資産の増加 | 100 | 200 | 250 | 550 |
キャッシュ | 0 | △100 | △150 | △250 |
新規借入 | | 100 | 150 | 250 |
「キャッシュ」の欄を見ると、資産が増加した結果、利益以上のキャッシュ・アウトが生じ、会社から資金が流出していることがわかります。
銀行が貸してくれるから、収支の帳尻が合って事業が継続しています。原因が不良債権や不良在庫の増加ということであれば、これらの資産は現金化できません。そうすると、ここで借り入れた250は、何を原資に返済することになるのでしょうか??
損益計算書は、会計基準の一定のルールの範囲内で、会社の利益を計算します。これを基に、業績を評価したり、税金計算をしたり、配当を決定したりするもので、決算書としては非常に重要な役割を担っています。
しかしながら、損益計算書は、「会社の資金繰りの実態までは見えない」という弱点を持っているのです。
そこで、上場企業等の大企業においては、会社の資金収支状況を把握するための「キャッシュ・フロー計算書」を財務諸表に含めることとされています。
残念ながら、中小企業では損益計算書・貸借対照表が中心の決算書となっていますので、キャッシュ・フローの状況まで十分に把握されないまま融資判断や企業評価あるいは社内の経営判断が行われがちであるということを知っておくと良いと思います。
【キャッシュ・フロー計算書】
それでは、「キャッシュ・フロー計算書」を少し解説したいと思います。
キャッシュ・フロー計算書は、企業の資金収支を「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3区分に分けて報告するための財務諸表です。各区分は、
「営業活動によるキャッシュ・フロー」(営業C/F):
・通常の営業活動から生ずるキャッシュ・フロー
・投資活動・財務活動以外のキャッシュ・フローを記載します
「投資活動によるキャッシュ・フロー」(投資C/F):
・設備投資・株式投資等によるキャッシュ・フローを記載します
「財務活動によるキャッシュ・フロー」(財務C/F):
・増資・貸付・借入等によるキャッシュ・フロー
となります。
例えば、営業C/Fで稼いだ利益を設備投資と借入返済に充てている様子だとか、逆に、営業C/Fの赤字を固定資産の売却や借入によって賄っている様子が、計算書に表記され、合計として当期の資金の増減が明記されます。
キャッシュ・フロー計算書は、主にキャッシュ・フローの増減の結果を表記するための財務諸表といえます。結果を分析することには向いていますが、目先の資金繰りを管理するためのものではありません。
資金繰り表
では、目先の資金繰りを管理するためには、「資金繰り表」を活用します。
資金繰り表は、決算開示用の書類ではなく、企業内部の資金繰り管理用の書類です。したがって、法律や規則による書式というものはありません。
一般的な内容で解説します。まず、記載項目を説明します。
大きく「営業収支」、「その他の収支」、「財務収支」の3区分に分けます。これは、上記のキャッシュ・フロー計算書とほぼ同じ区分けになります。
「営業収支」として、
(収入項目)現金売上、売掛金回収、受取手形決済・割引、雑収入など
(支出項目)現金仕入、買掛金支払、支払手形決済、人件費・経費支出、支払利息など
「その他の収支」として、
(収入項目)固定資産売却収入、有価証券売却収入、定期性預金解約収入など
(支出項目)設備投資額、有価証券購入、定期性預金積立など
「財務収支」として
(収入項目)借入による収入、増資による収入など
(支出項目)借入金返済支出など
となります。
これらの項目の実績額と将来の見込額を記載し、企業の資金繰りを管理し、不足する前の手当等を管理してゆきます。
また、管理をするスパンに関してになりますが、資金繰りの厳しさにもよりますが、比較的余裕のある企業の場合は、月次で管理してゆくのが一般的かと思います。
月中での資金繰りが厳しくなる場合や、より厳格な管理を行い手許資金量を絞っている企業は、「5日毎」で管理するケースがあります。これは、入金や支払の期日が5日、10日15日、20日、25日、月末日(5・10日といいます。)となっている場合が多いので、その資金の出入りが多い区切りで管理をするという方法です。
運用面の問題になりますが、入金期日を5・10日、支払期日をその翌日としておけば、より安全な資金繰りができるように思います。
さらに、資金繰りに窮している状況では、「日繰り」を行っているケースもあります。
現在の非常に厳しい経営環境の中では、短期的な赤字を出すことがあっても、資金繰りを誤らないことで、事業継続を図るということが重要な経営戦術となるケースもでてくると思います。
私自身、3ヶ月分の資金を残せるようにしておけば、ある程度の対処ができると顧問先様へ助言をしています。これは、融資の申し込みや営業強化やコストカットなどの対応期間を考慮してのことです。参考にして頂ければと思います。
少し抽象的な内容ではありますが、開示・分析用のキャッシュ・フロー計算書と資金繰り管理用の資金繰り表と上手に活用して、安全な財務運営を行って頂きたいとの趣旨で紹介をいたしました。
ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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