こんにちは。今年の暑さも幾分和らぎました。原稿が出る頃には少し秋の兆しも見えていることと思います。このところ消費税増税に向けての政府のプレゼンスが高まっているように思います。いよいよという気もしますが、仕切り価格や店頭価格の見直しなど、世の中の動きをしっかりと見極めて、対応するタイミングを誤らないようにしなければいけません。利益率に換算して最大3%の影響が生ずるわけですからね。
さて、今回は、「事業活動の承継」というテーマですすめます。
【事業活動を承継するということ】
事業の承継というと、単純に「経営を渡す」というイメージがあります。最終的には、株式と代表権を渡すということになろうかと思いますが、実際はそんな単純なやり取りではありません。なぜならば、会社は、ヒトとヒトとの関係でなりたっている組織だからです。また、そこには、多くのモノがあり、カネが動き、ノウハウが溜まっています。
そのような組織的で継続的な活動を渡してゆくわけです。例えば、事業承継の結果、ヒトが離散したり、モノが不足したり、カネが枯渇したり、ノウハウが途絶えたりということでは、ご自身の望んだ事業承継とは言えないと思います。
逆に、経営スキルの高い後継者に渡せば、後のことは後継者がやってくれる。という摂理もあろうかと思います。しかしながら、そのような後継者は簡単には育ちませんし、すぐには見つかりません。
いやいや釈迦に説教ですね。経営者の方は、実のところ、そんなことは十分にわかっていらっしゃいます。経営者にとって事業承継の問題は、最も重要な過大のひとつですので、なかなか任せるまでの決断に至らないこともあるでしょう。また、経営者自身が育ててきた会社を自分が元気なうちに手放す気にはなれないでしょう。
しかしながら、事業の承継の時期は、いつか必ずやってきます。また、その時期は経営者自身が選択できるものとも言い切れません。
時を選べない事業の承継を自分の望むような形にしてゆくには、やはり、長期的なスパンで準備して、できる限りの対応をしておくことが必要ではないでしょうか。
【事業活動の分析】
事業活動の承継を検討する場合に、事業活動をどのような視点で掘り下げるとよいでしょうか。
まず、会社の事業の内訳とそれぞれの業績や将来の見通しをまとめます。
【例】
(A事業)売上XX、営業利益XX、本業、成熟産業だが業績は安定
(B事業)売上XX、営業利益XX、新規事業、成長産業だが業績不安定
(C事業)売上XX、営業利益XX、副業、不動産賃貸
(共用資産・非事業用資産)社宅、更地
ここでは、承継すべき事業や資産を検討し方針を決めます。
つぎに、承継の対象とした事業について、「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「ノウハウ」の4つの視点で掘り下げてみます。
【例】
(ヒトの視点)
● 株 主 : 株式の承継をどうするか、株主間の関係に問題がないか
● 経営者 : 後継者を誰にするか、役員間の関係に問題がないか
後継予定者に後継の意思、気力、体力があるか
後継予定者に経営管理の知識と能力があるか
● 従業員 : 後継予定者と従業員との関係は構築できているか
● 取引先 : 後継予定者と取引先との関係は構築できているか
● 個 人 : 承継後に自分は何をするか
事業の承継に関して、親族関係に問題はないか
(モノの視点)
● 所有権:事業用の資産で個人所有のものはないか
● 個人所有の資産を後継予定者へ承継できるか
(カネの視点)
● 銀 行 : 取引銀行が後継予定者を信用してくれるか
● 保 証 : 後継予定者は、会社の借入金の保証人となれるか
● 退職金 : 代表者を退任するに当たり、自分に対する見返りがどれだけ必要か
● 税 金 : 事業承継に関して、どれだけの税負担が生じるか
納税資金が確保できるか
● 資 金 : 事業承継後の会社の資金繰りに問題はないか
(ノウハウの視点)
● 経営理念 : 会社の経営理念、社是、経営方針などを承継できるか
● 技術技能 : 会社や社長に蓄積されている技術・技能を承継できるか
● 知的財産 : 会社や社長が保有している知的財産権を承継できるか
● 許認可等 : 許認可等が必要な事項について承継できるか
上記がすべてという訳ではなく、その会社に応じた切り口があるものと思います。
これらの検討課題を見える形で文書化しておくことがとても重要です。最近よく話題になる「終活」の会社版といったイメージです。
【情報の認知と相談相手】
経営者は、前項に記載した事業承継の課題一覧について、望むべき事業承継に向けての改善や実現に向けての準備を進めてゆくことになります。
しかし、事業承継の問題は、会社にとっても経営者にとっても非常にセンシティブな話で、簡単に誰それと打ち分けるわけにはいかないと思います。一方で、事業活動というのは経営者一人だけでできるものではないことも経営者自身はわかっているはずです。
後継予定者、経営幹部、従業員、取引先、金融機関、株主、親族など、様々な関係者に対し、それぞれ大きな利害が係わることになります。
どのレベルの話をどの段階で誰に開示して協力を得るのかについても、整理しておく必要があります。
とても複雑で影響の大きい利害調整で、関係者がそれぞれ当事者になりますので、経営者にとっては、第三者的な視点から相談にのってくれる利害の係わらないパートナーがいるかどうかということも、事業承継の成否に大きく係わるのではないかと思います。
そうしますと、経営者には、経験の豊富な他の経営者や専門家と何でも話せるような信頼関係を築くということも必要なことになるように思います。
【最後に】
最近の風潮では、少子高齢化社会、後継者不足を背景とした事業承継に関する宣伝が多くなっているように思います。「これだけ知っておけば万全!」だとか「誰も知らないノウハウ!」だとか「私に任せれば安心!」だとか、専門家がそれなりの風格で訴えると、それなりの説得力があるように聞こえますね。
しかし、事業の承継という問題は、短期間で終わるような話ではありません。一筋縄ではいかないことも多々あると思います。少なくとも、税金や相続だけの問題ではありません。
私自身も、一専門家として「事業承継」を取り上げています。もちろん、専門性やノウハウも大切です。それと同時に、経営者の立場を十分に理解し、できる限り望ましい形に落とし込んでゆく姿勢や努力も大切だなと感じるわけです。
ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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