こんにちは。すっかり涼しくなりました。大かたの予想通り消費税増税が決定されました。その他の政策報道を見ていても、税や社会保険料の負担は相対的に上がってゆくのでしょう。非常に厳しい時代になりそうですが、気を引き締めて変化に対応していかなければなりませんね。
さて、今回は「親族以外への事業承継」を取扱ってみたいと思います。子息が不在な経営者や子息がいても事業を継がれない事情がある場合など、少子高齢化が進む今日では、けっして稀なことではありません。
ケースを3つに分けて説明したいと思います。
【役員や従業員を後継者とするケース】
親族ではない役員や従業員を後継者にする場合は、一般的に、株式を譲渡(売買)によって渡すことになります。
(1)何株譲渡すべきか(決議要件)
株式会社の場合になりますが、後継者が会社の株主総会を支配するには、原則的に、議決権の3分の2以上の株式を保有する必要があります。いわゆる普通決議要件(出席株主の過半数)のみでなく、定款変更や合併・分割などの一定の事項についての特別決議要件(出席株主の3分の2以上)も満たしておく必要があるということです。
逆に、現経営者が、承継後も一定の影響力を残したいような場合は、3分の2以上は渡さないという判断もあり得ます。
(2)いくらで譲渡すべきか
所得税法は、個人と個人の株式の譲渡は、原則として時価での譲渡を前提としています。時価より安い値段で譲渡すると、買主が贈与を受けたと認定されるリスクがあります(時価より高い場合は売主への贈与)。一般的に、非上場会社で黒字の企業は、時価評価額が高額となりやすいため、事前に自社株の時価評価額をあらかじめ把握して、いくらで譲渡したら、いくら税金がかかるかを把握しておく必要があります。
(3)資金対策
上記(2)のように時価譲渡の前提で高い株価となった場合、後継者が株式の取得資金を準備できるのかが大きな問題となります。
長期的に準備ができる場合、後継予定者の役員報酬を増額し買取資金を積み立てる
後継者個人が買取資金を銀行から借りて事業承継後の役員報酬で返済する
株式買取会社を新設して、会社が買取資金を借りる
など、後継者サイドでの資金プランを立てる必要が生じます。
【知合いに事業を譲るケース】
信頼関係のある知合いに事業を承継するケースを想定します。前項との違いは、事業を承継する人が社外の人だということです。その知合いの方は、必ずしも会社の株式が欲しいと思っているとは限りません。事業承継のかたちは、株式譲渡、合併、会社分割、株式移転、営業譲渡と様々な方法があります。当事者の希望を照らし合わせて、それぞれの希望がかなう承継方法を検討します。
あくまで、一般的な例ですが、手法を比較してみましょう。
方 法 | 対 価 | 特 徴 |
株式譲渡 | 金銭等 | ・株式譲渡契約のみですむ ・持分(議決権)の配分ができる |
合併 | 株式、その他 | ・会社すべての承継 ・現経営者は、株主として残る ・会社の権利・義務をすべて引継ぐ ・のれん(営業権)が発生
|
会社分割 | 株式、その他 | ・会社の一部の事業の承継 ・現経営者は、株主として残る ・承継する事業の権利・義務をすべて引継ぐ ・のれん(営業権)が発生 ・存続会社が残る
|
株式移転 | 株式 | ・会社は、引受会社の子会社となる ・現経営者は、引受会社の株主となる ・会社の権利・義務をすべて引継ぐ
|
営業譲渡 | 金銭等 | ・会社の一部または全部の承継 ・現経営者は、承継対象事業からは原則として退く ・のれん(営業権)が発生 ・権利・義務は、個々に引継ぐ(当然には引継がない) ・場合によって存続会社が残る ・消費税・不動産取得税等の発生
|
※税制適格要件を満たさない場合を想定している。
当事者のニーズを擦り合わせ、それぞれのスキームのメリット・デメリットを比較して、採用する手法を決めてゆきます。もちろん、取引の価格や合併比率などについても合意に至る必要があります。
中小企業の場合は、承継後の株主関係、必要資金、税務メリットなど専門的なところは、顧問税理士など比較的身近な専門家と相談しながら、事業自体については、当事者同士の協議の中で、条件を検討するというところではないでしょうか。
【第三者に事業を譲るケース】
最後に、まったくの第三者に事業を承継するケースを取り上げたいと思います。例えば、事業承継やM&Aを専門に扱うコンサルタントから紹介をもらって事業売却を検討するようなことが考えられます。事業承継というよりは、M&Aということになります。
手法に関しては、前項と基本的に同じです。前項と異なるのは、当事者に信頼関係がないということです。
コンサルタントが介在するケースの段取りになりますが、
1.コンサルタント会社(以下「コンサル」)への申込み
2.コンサルによる簡易デューデリジェンスと募集要項の作成
3.コンサルから買い手企業の紹介・協議
4.買い手企業と基本合意書を作成
5.買い手企業によるデューデリジェンス
6.条件交渉
7.契約成立
概ねこのような流れです。
一般的に、M&Aを行う場合「デューデリジェンス」という手続きが必要となってきます。最近ヒットした銀行員のドラマの中でも出てきたキーワードですが、おおまかに言うと、事業投資の際に行われる対象会社のリスク調査の手続きです。
売り手企業ないしコンサルは、買い手企業を募集するに当たり魅力のある提案書を作成するため、自社を分析します(上記2.)。
また、買い手企業は、対象会社のことについて詳細な情報がないため、弁護士や公認会計士などの専門家を対象会社に派遣し、法的なリスクや財務的なリスクを調査します(上記5.)。
売り手企業側のアピール内容と買い手企業側のデューデリジェンスの結果が違いすぎると契約成立には至らないことでしょう。そうならないためにも、買い手企業からの調査を受ける前提での事業買収提案を最初から行うことが重要かと思います。
もう1点、取引の当事者は経営者自身です。私の経験則からいっても、最終的に買い手企業を説得できるのは、経営者自身だと思います。
コンサルタントや専門家は、専門的な見地から、事業買収の方法の提案やリスク情報の提示など価値のある情報提供を行うことと思います。しかしコンサルタントや専門家の発言が絶対ではありません。短期間での調査ですので、理解が不十分な可能性だってあります。これらの専門的な情報をしっかり見極め、うまく活用することも第三者への事業承継を成功させる大切なポイントだと思います。
ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
|