はじめに
こんにちは。今回から、しばらくは、企業の資金繰りについてのお散歩をしてゆきたいと思います。「どうして、うちの会社にはお金が残らないのかね。」そのように感じている経営者の方は、いらっしゃいませんか?
私の同級生の経営者が、このようなことを言っていました。
「入るお金以上に使わなければ、会社は回る!」
その通りです。この名言を掘り下げて管理すれば、企業は存続すると思います。
● 入るお金(キャッシュ・インフロー)が、いつ、いくら入るのか
● 出るお金(キャッシュ・アウトフロー)が、いつ、いくら必要なのか
上記のテーマを損益計算書の科目と、会社の部門ごとに管理をすることを意識しましょう。
損益科目 | 営業部門 | 製造部門 | 管理部門 | 合計 | キャッシュ・フロー |
売上 | ×× | | | ×× | いつ・いくら |
売上原価 | ×× | ×× | | ×× | いつ・いくら |
売上総利益 | ×× | ×× | ×× | ×× | いつ・いくら |
人件費 | ×× | | ×× | ×× | いつ・いくら |
販売費 | ×× | | ×× | ×× | いつ・いくら |
管理費 | ×× | | ×× | ×× | いつ・いくら |
営業利益 | ×× | ×× | ×× | ×× | いつ・いくら |
営業外収益 | | | ×× | ×× | いつ・いくら |
営業外費用 | | | ×× | ×× | いつ・いくら |
経常利益 | ×× | ×× | ×× | ×× | いつ・いくら |
単純化すると、各部門別に発生する収益・費用は、上表の「××」欄にしか生じないといってもよいでしょう。各部門で発生する「XX」の収益・費用が、それぞれ「いつ」「いくら」入出金をするのかを分析して、将来の資金繰りを予想し、必要な資金調達を行うということになります。
資金繰り管理の大前提
個々の内容に入る前に、会社の資金繰り管理を行っていくための大前提をお話します。
【経営者個人のお金と会社のお金を分けること】
創業期の中小企業には特にありがちかと思いますが、経営者が会社の経費を立替え、個人の現金で支払い、後々精算するようなケースがあります。逆に、社長個人の交際費を会社のカード払いとしてしまうようなケースがあります。これでは、今会社にどれだけのキャッシュがあるのか、いつ・どれだけのキャッシュが必要なのかが把握できません。それだけでなく、他の役員・従業員に対して、示しが付かないため、悪しき社風が作られる可能性が高くなるものと思います。
● 会社としての小口現金(手提げ金庫や別の財布)を用意し、そこから現金支払いを行うこと
● 会社に対する請求は、必ず会社の銀行口座から振込むこと
● 役員報酬をしっかりと取って、個人経費を会社で立替えないようにすること
● 社長個人が会社から借入れたりあるいは会社に貸付けたりする必要があるときは、厳格に役員貸付金又は役員借入金としての処理を行い、利息も計算すること。
【売上金を本社預金に預けること】
売上金の現金回収がある事業の場合は、その日のうちに売上金を本社の預金口座に入金するように心がけましょう。また、支店等に売上入金口座を設けている企業は、その口座からの経費支払を行わずに、一定期間ごとに、本社の預金口座に振替えるように心がけましょう。収入に関する銀行口座を分離し、直接支払をしないことで、通帳自体が入出金管理簿の役割を担ってくれることになり、資金繰りが目に見えるようになります。また、売上金を直接支払に回せる状態は、着服リスクの増大につながります。
店舗や支店については、小口現金や支払用口座で、必要な金額のみ持たせておくようにしましょう。
【部門別損益の把握】
日常の経理処理をするに当たっては、部門別の損益管理ができるような設定を行いましょう。部門設定をするだけで、企業の資金の源泉がどこになるのかが一目瞭然となります。逆に、部門設定を怠れば、全社の会計記録から部門別の損益状況を後付けで分析しないことには、部門別の状況が把握できず、仕訳量によっては実務的に分析が困難となる可能性が生じます。
そのためには、必ず部門設定機能のある会計ソフトを利用しましょう。市販の会計ソフトでも十分に対応できるものがあります。また、顧問税理士に、部門設定をお願いすれば対応してくれるものと思います。
最初は、面倒に感じるかも知れませんが、いずれも難しいことではありませんので、経営者が「そうする」と意思決定をすれば、「必ずできる」管理です。企業規模が大きくなった後に、体制を変更するには、労力がかかりますので、創業期の早い段階で、切り替えておくことが大切だと思います。
また、ある程度、企業規模が大きくなっていたとしても、1年内に対応を終えられる内容かと思いますし、莫大コストがかかるような論点ではありません。すぐにでも、体制変更に動くべきかと思います。
次回は、「運転資金」ということで、損益計算書の「売上高」「売上原価」「売上総利益」の部分に着目して、企業の資金繰りを考えたいと思います。
是非、皆様のご意見・ご要望をお聞かせください。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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