財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成26年9月号》
資金繰り管理 −運転資金その2

棚卸資産のサイクル
  こんにちは。今年は雨続きで夏はあっという間に終りを告げるようですね。さて、資金繰り管理、今回は在庫(棚卸資産)の管理について触れたいと思います。

 一言で、棚卸資産といっても、業種や契約形態あるいは製造過程等によって棚卸資産の種類も変わってきます。代表的なものを記載すると、
  商品:外部から仕入れて販売する棚卸資産(小売業、卸売業等)
  製品:外部から材料や半製品を仕入れて、加工して販売する棚卸資産(製造業等)
  仕掛品:社内で加工中の棚卸資産(製造業等)
  原材料:製品を作るために仕入れた材料(製造業等)
  未成工事支出金:施工を開始して、工事が完了する前に支出した工事原価(建設業等)

 いずれも、まだ顧客には渡っていませんので、当然ながら資金化されていません。仕入代金については、仕入先との契約通りに支払わなければなりませんので、棚卸資産として保有する期間が長ければ長いほど企業の資金は減少してゆくという関係性があります。
 一方で、企業が棚卸資産を抱えている期間は、企業の商品や製品の付加価値が造成されていく期間でもあります。例えば、酒造メーカーであれば、材料を仕入れて、十分な仕込みをして、発酵させて、またそれを熟成させる期間が必要ですね。流通業にしても、品揃えの豊富さなどが企業としての付加価値を増しますので、それだけたくさんの種類の在庫を仕入れることになるでしょう。
 もう1点、欠品のリスクにも対応しなければなりません。お客様から折角ご注文を頂いたのに、「すみません。入荷待ちです。」ということではいけませんね。欠品が度重なるとこれは企業としての信用や信頼性に影響が生じますので、取引停止やお客離れに直結する問題となってくるように思います。いくら味のよいお寿司屋さんでも、行く度に青物魚がネタ切れだったりすると、自然と足が遠のくものです。
 つまり、棚卸資産の資金繰りは、「在庫保有による資金負担」、「企業の付加価値の創造」、「お客様に対する信用」の3点をバランスよく管理することのように思います。

 それでは、管理上のポイントを考えてみましょう。
 まず、「数量管理」。つまり、棚卸資産がいくつあるのかを把握することが第一のポイントです。
 ● 棚卸資産の受け払い簿を作成する(できれば在庫管理システムを導入する)
 ● 確実に受け払い記録が残るような業務の手順を決める(記録なしに在庫を移動させるのは、着服横領と同罪です。会社の現金を勝手に持ち出すのと同じです。)
 ● 定期的に実地棚卸を行い、受け払い簿と突き合わせる。
 日常の管理状況の評価、不良化した棚卸資産の把握、従業員の棚卸資産に対する管理意識の向上など、さまざまな効果が期待できますし、まずは現状を企業として把握することから管理のスタートとなります。

 つぎに、「滞留資産・不良資産の把握」を行います。長期に滞留している棚卸資産については、その商品・製品の価値が下がっているケースがあります。また、不良化している資産は、そもそも売れません。
 このような資産をいつまでも正常な資産として帳簿に上げていると、表面的には損失計上されていませんし、資産の価値もそのままですので、「そのうち現金化できるような決算」になります。これでは、経営者の見立てと現実がかけ離れたものとなってしまい。「黒字の銭足らず」の経営となってしまいます。
 実務としては、半年程度の単位で棚卸資産の滞留表を作成します。その棚卸資産の特性にもよりますが、例えば1年超滞留したものについては、販売可能価格を調査し、価値が陳腐化してしまう前に、見切り販売をするなどの対応が考えられます。価値が下がっているものについては、以下に早期に資金化するかを考えるということです。

 3点目のポイントは、「適正在庫の把握」です。非常に経営的なセンスを問われるところかと思いますが、売れ残りを発生させず、かつ欠品も生じさせない適正な在庫量を仕入れるということです。
 立派な仕掛けのある豪華な噴水に例えてみます。水槽に溜まっている水の量がお金です。大きな水槽を作れば噴水は止まることはありませんが、たくさんの水を使います。水が少なすぎると肝心な大仕掛けの時に、噴水がでない可能性があります。
 ポイントは、噴水からどのタイミングでどれだけの量の水を発射するかを把握し、そのタイミングに合わせて必要な水を入れておけばよいということです。
 企業経営に置き直すと、売上の見通しをどれだけの精度で立てられるのかということが適正在庫を把握するためのポイントとなります。
 売上の見通しの立て方に、正解はないのですが、注意点としていくつかあげておきます。
 ● 社内の売上目標は、あくまで目標ですので、適正在庫の把握には適合しないケースが多い。過年度の実績やトレンド、販売能力や生産能力を考慮して検討する。
 ● 引合・商談の状況を情報収集する際に、確度をランク付けして報告させる(A、B、Cランクに分けて、Bランク70%、Cランク50%などのウエイト付けをして売上見通しとするなど)。
 精度の高い売上の計画にそって、必要な時期に必要な量を仕入れるということになります。
 最後に、仕事の流れのムダを省くということです。工場の製造工程のことを「製造ライン」という表現を使うと思います。製造工程をライン上に並べて流れ作業にすることで、途中の手待ち状態の在庫を削減することができます。また、店舗経営をされている企業については、店舗毎の仕入やメニューとするのではなく、メニューを統一化して本社一括購入とすることで、仕入単価自体を下げられる可能性があります。あるいは、在庫の保管場所を整理整頓し、在庫保管をルール化することで、在庫の放置や紛失を避けることができます。

 資金管理と称して、経営上の判断事項や日頃の業務マニュアルのようなことにも触れさせて頂きましたが、在庫管理については、このような判断や日常管理も会社の財務力に繋がるということです。経営者も従業員も、「在庫はお金だ」という意識を持ってことに当たれば、おのずからこのような管理方法にたどりつくのではないかと思います。

 是非、皆様のご意見・ご要望をお聞かせください。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
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