財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成26年10月号》
資金繰り管理 −運転資金その3

仕入債務の資金繰り管理
 運転資金の資金繰りの最後として仕入債務を取り上げます。
 仕入債務には、買掛金や支払手形などがあります。この仕入債務の支払期日に必要な資金を用意できるかどうかが運転資金の資金繰り管理の一番重要な目的となります。期日を遅れれば当然企業の信用を失うことになりますし、支払手形を振り出している企業は、不渡りを2回起こせば、銀行取引が停止されることになり実質的に倒産企業というレッテルを貼られる可能性があります。
 まずは、仕入債務の決済条件を管理しましょう。取引の契約書や注文請書において決済条件を定めるようにします。また、支払日については、例えば末日払いなど、ひとつの日に集中できるよう交渉すると資金の手当てや支払事務などの効率化につながります。
 支払期日は遅ければ遅いほど企業の資金繰りは楽になります。特に、製造期間(工事期間)や売掛サイトが長い取引ある場合は、そのような事情を仕入先に説明して支払サイトを長くしてもらうように交渉する方法もあると思います。
 つぎに、支払予定を管理しましょう。決済条件が決まっていれば、仕入れた時点で支払日が確定していますので、仕入日ごとに支払予定を集計するような仕組みが可能です。それが難しければ請求書ベースで、支払予定表を作成することになります。支払手形については、別に支払手形管理表を作成し、支払予定表に転記するような形になろうかと思います。
 買掛金・支払手形の管理システムを利用すれば、仕入先毎に決済条件を登録して、仕入計上の段階で大方の支払予定がわかるような体制作りが可能です。
 管理手法自体は、債権債務の管理ですので、売上債権の管理と同じような手法を用いることになりますが、管理の目的は「期日どおりに確実に支払う」ことにあります。

運転資金の管理と資金調達
 売上債権の管理で入金予定を集計し、仕入債務の管理で支払予定を集計することで運転資金の資金繰り予定が把握されます。また、契約条件の管理や棚卸資産の管理を通じて、運転資金の資金繰りの効率化が図られます。
 一般的には、仕入債務その他のコストの支払の方が売上債権の回収に先行しますので、その資金不足分を調達する必要が生じます。資金調達は自己資金(社内留保等)から行うか、他人資本(借入金等)から行うか、あるいはその両方から調達するかの三択になります。単に資金が確保できればよいということだけではなく、資金調達自体にコストや将来の資金負担が生じるとうことを説明したいと思います。
 資金調達の方法毎に、その特徴をまとめます。

 1.自己資金
   ●配当金が生じます。配当金支払いは、税務上損金になりませんので、全額が調達コストになります。但し、中小企業では配当を要求されないケースもあります。
   ●出資額や内部留保は、返済義務を負いません。
 2.借入金
   ●利息が発生します。支払利息は、税務上損金になりますので、税金分を除いた額がコストとなります。利率は企業の信用度があがれば下がってきます。
   ●元本の返済義務を負います。好業績が継続する間は、金融機関は運転資金を積極的に融資してくれますが、企業の財政状況が悪くなれば、元本の返済を要求される可能性も生じます。
 3.売掛金の譲渡、受取手形の割引
   ●売掛金の譲渡や受取手形の割引も資金調達手段のひとつです。
   ●譲渡手数料や割引料が生じます。譲渡手数料や割引料は、税務上損金になりますので、税金分を除いた額がコストとなります。借入金の利息と比較すると、こちらのコストの方が割高となる傾向になります。

 また、運転資金の不足額を正確に把握することで、資金調達の費用を安く抑えることができます。運転資金の調達は、売上債権の入金までの資金不足を補うものですので、例え借入金で調達したとしても、理論的には売上債権の入金時に全額返済できる性質ものです。したがって、金融機関も運転資金の融資は、手形貸付や短期の融資形態を取るのが一般的です。当然ですが、短期融資の方が金利が低くなっています。
 どんぶり勘定で、通帳残高が底をつかないようにいったスタンスで、多額の借入金を長期に行っている企業と、運転資金を把握し、必要額を必要な期間だけ借入している企業とが、競争をすれば最終的に生き残る企業はどちらでしょうか。企業経営は、10年、20年あるいはそれ以上の長い道のりを走る競争です。しっかりと将来を見据えて、戦略的な経営判断を行っていくことが大切だと思います。

 是非、皆様のご意見・ご要望をお聞かせください。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
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