こんにちは。年が明けたと思えば、もう新年度。早いものです。本稿が出る頃には、平成27年の税制改正の確定していることでしょう。
さて、前回からの続きになりますが、同じ会社の株式でもその評価額はまちまちです。
評価が異なる「根本的な理由」と「制度的な理由」を解説したいと思います。
株式評価が異なる根本的な理由
株式の取引が、経営権に影響するかしないかで、その評価額は大きく異なります。
一般的に、業績の出ている会社では、経営権に影響する場合は株式の評価は高くなり、そうでない場合は低くなるということです。
会社の役員の選任決議は、株主総会で議決権の過半数の同意で決定されます。つまり、過半数の議決権を保有していれば、会社の役員を自分の意思で決定できるわけで、会社の経営を概ね支配しているということが言えると思います。経営権に影響しうるような株式の取引においては、その会社の業績や財産の状況などが株式の価値に影響を与えることになります。
一方で、議決権の数パーセントしか保有していない少数株主は、株主総会の決議や経営そのものに対してほとんど影響を与えることはできず、会社からの配当を期待するくらいしかありません。上場株式であれば株価の上昇も期待するところですが、非上場株式の場合は、売却する市場もありませんので、会社の業績や財産の状況よりも配当金の実績の方にその価値が見出されるということになります。
感覚的には分かり易い話だと思いますが、ここに落とし穴があります。
株主としての権利は、法律や定款で定められていて、決して感覚的なものではないのです。株式とは、会社の株主としての権利を表す有価証券です。その株主には、大きく2つの権利が認められています。ひとつは、「自益権」と呼ばれる権利で、これは会社から配当を受け取る権利です。株主総会で決定された配当金は、株主の保有している権利に応じて、等しく配当されます。もうひとつは、「共益権」と呼ばれる権利です。これは会社の意思決定に参加する権利です。具体的には、株主総会に対する議決権などをいいますが、さらに議決権の保有状況等によって、株主に認められている権利が異なってきます。
株式の評価をするに当たっては、その株式取引が、どういう状況でどのような目的で行われようとしているのか、また、法律や定款で定められた株主の権利関係にどのような影響を与えるのかを客観的に分析した上で、検討を進めることが大切になります。
株式評価が異なる制度的な理由
非上場株式の取引価格は、本来当事者間で合意された価格で決めるべきもので、制度で規制するべきものではありません。しかし、税法の世界では、非上場株式の評価についての法令や通達が定められています。しかも、かなり厳密に算定方法が定められています。
良く知られているのは、財産評価基本通達による評価というものです。
事例を挙げます。
図1
贈与税では、著しく低い価格で財産の譲渡を受けた場合は、時価との差額について贈与 税が課されることが規定されています。
このケースの場合、買主Bは600万円の株式を取得し、420万円の贈与税を納める ことになります。
仮に、時価で譲渡した場合は、売主Aに譲渡所得税が300万円かかる計算になり、両者の納税額のみ比較すると、140万円も多くの税金がかかったということになります。
個人・法人間の売買や法人間の売買においても、それぞれの税法で、時価と取引価格の差額について、課税対象とするような取扱いが定められています。
そのような実情を踏まえると、節税メリットを優先して、株式の評価額を決定することも実務的には十分にあり得ます。
しかしながら、税法のいう株式の評価額は、国が、公正・公平な課税を行うことを目的とするものですので、前項で説明をした株式評価が異なる根本的な理由を背景とする評価額と必ずしも整合するものではありません。
このように、実務の中では、根本的な理由を背景とする株式評価と制度的な理由を背景とする株式評価の両方を踏まえた上で、株式の価格を検討されているとういことが言えるのではないかと思います。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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