財務会計の散歩みち

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成27年6月号》
中小企業にとっての企業価値−時代背景と株価戦略

伝統的な相続対策と自社株評価
 株式の相続の場面では、必ず株式の評価額が論点となります。株式の評価額が低ければ、当然、相続税も低くなるため、株式評価額を下げるための対策に関心が集まり易い傾向にあります。
 一般的に、中小企業は、経営者とその親族で、自社株式の大半を占めており、税務上は同族会社となっていることが大半です。また、1同族株主とその配偶者や直系親族等で、株式の25%以上を占める場合は、「中心的な同族株主がいる会社」というくくりになります。
 税務上は、株主の持株割合の多寡で評価方法が変わってきます。

図3

「原則的評価方式」
 :会社の規模や形態により、類似業種比準方式又は純資産方式及びその併用による評価
「配当還元評価方式」
 :過去2年間の配当金額を10%の利率で還元して、元本である株式の価額を算定する方法

 中小企業の経営者は、一般的に原則的評価方式に該当するケースが大半かと思いますので、原則的評価方式にある類似業種比準方式と純資産方式による評価額を下げるにはと話が進むわけです。

「類似業種比準方式」
 :類似業種の1株当たりの「配当金額」、「年利益金額」及び「純資産価額」と自社のそれぞれを相対比較して、自社株の評価額を決定する方法

「純資産方式」
 :会社の純資産の時価(相続税評価額)を検討し、1株あたり株式の価格を算定する方法

時代背景の変化と本当の対策
 上記の2つの方式による評価額を下げるには、それぞれの構成要素となる「配当金額」、「年利益金額」、「純資産価額」、「資産の時価」をそれぞれ下げるような対策をよく税理士は指導しがちです。
 ・利益を抑える
 ・資産の価値を下げる
 過去と違い、今の経済環境は、価格競争の激化・人材不足(人事コスト増加)・大幅なインフレは望めないといった状況です。とても赤字経営が許される状況とは思えません。相続税を抑えるために、会社の存続を危うくするということでは、まったくの本末転倒です。

 一方で、非上場株式は換金できませんので、相続に対する納税資金が確保しにくいということも重要なポイントになります。つまり、「お金を残しておくこと」が必要なんです。
 今の時代を踏まえた、株価対策を考えてみましょう。

「会社又は経営者にお金を残すこと。」
 会社を潰さないためには、借入金に過度に依存せず利益が保てる健全経営が必要です。
 また、納税や株式買取の資金を確保するため十分な役員報酬を取りましょう。

「株価が低いタイミングで、事前に贈与又は譲渡」
 故意に株価を引き下げるのではなく、株価が下がったタイミングで、相続を待たずに株式を贈与又は譲渡しましょう。株価が下がるタイミングは、中長期の視点で押さえておく必要があります。
 ・役員の退職時 ・新規事業進出時 ・大型修繕や設備投資の時期
 (業績が苦しい時期は、一方で株式の承継時期ともいえます。)

 株式の承継(資本政策)も、経営者の大切な役割のひとつです。急場の相続対策で会社の収益力を毀損しないよう、クレバーな経営を目指して頂きたいと思います。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
                     前へ<<               >>次へ
財務会計の散歩みちリストに戻る