今回は、A 社から B 社への再提案の打合せの内容です。
今回は、財務分析のお話しです。
この会社は、第 19 期(平成 27 年3月期)に民事再生法の適用を申請して倒産しました。
下にあるのは、その上場企業の倒産に至るまでの財務指標の推移です。
財務諸表の重要な項目のみをしていているものですが、これだけでも、何故この企業が倒産したのかを垣間見ることができます。
(単位:百万円)


事業収益や総資産は、第 16 期以降大きな変動はなく、事業規模に大きな変化はないということがわかります。
一方利益水準をみると第 16 期をピークとして、利益は下降しており、倒産直前の第 18期では、経常損失 4 億円、当期純損失 18 億円を計上しています。
ただ、純資産の金額は第 18 期末でも、446 億円もあり、次の期に倒産してしまうほどではないように思います。
しかし、キャッシュ・フローに関する指標と見てみると、状況は、はっきりします。
第 15 期は、営業活動によるキャッシュ・フロー148 億円の中から、施設や設備などへの投資(投資活動によるキャッシュ・フロー)を 53 億円拠出していることがわかります。
それが、第 16 期では、営業活動によるキャッシュ・フロー96 億円に対し、131 億円の投資を行っています。不足資金については、財務活動によるキャッシュ・フロー175 億円で賄っています。要は、借入を行ったということです。
同様に、第 17 期を見てみると、業績が下がっていることから、営業活動からは 10 億円しか資金が調達できていません。それにも関わらず、100 億円を超える設備投資を行っています。結果として、資金の残高が 306 億円から 231 億円と 75 億円も少なくなっています。
問題は、第 18 期です。業績が赤字に転落し、営業活動によるキャッシュ・フローが 3 億円しか残りませんでした。ところが、投資活動によるキャッシュ・フローは 139 億円と、前年をも上回る設備投資を実施しています。前々期に多額の借入を行っていることから、おそらく、新規借入ができず、財務活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなっていると思われます。結果として、資金残高は 70 億円と前年の 3 分の 1 以下となりました。
翌年、この企業は業績を回復することはできず、150 億円を超える経常損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローもマイナス 101 億円となり、倒産に至りました。
その企業の記事などを見ると、設備投資により業績を回復するというシナリオだったようです。第 16 期、第 17 期と 2 期にわたって、多額の設備投資を行いましたが、業績は回復せず、むしろ悪化してしまいました。しかし、まだ瀕死の状態にまではなっていませんでした。
会計の数値には明確に経営戦略の失敗が表れています。何故、その企業はここで戦略を変えることができなかったのでしょうか。 第 18 期に 130 億円もの投資をやってしまったのでしょうか。年 1 回外部に交渉される決算数値だけでも異常点が見えますので、その企業内部の管理会計の情報では、もっと早期に、数値の異常には気付けるはずです。
「会計を無視した経営」により、企業を倒産させるという会計の失敗事例です。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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