財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成28年12月号》
財務会計の散歩道−スキーム物語り(再提案議事録)

今回は、A 社から B 社への再提案の打合せの内容です。

 今回は、財務分析のお話しです。
 この会社は、第 19 期(平成 27 年3月期)に民事再生法の適用を申請して倒産しました。
 下にあるのは、その上場企業の倒産に至るまでの財務指標の推移です。
 財務諸表の重要な項目のみをしていているものですが、これだけでも、何故この企業が倒産したのかを垣間見ることができます。

(単位:百万円)

決算年月
キャッシュ・フロー

 事業収益や総資産は、第 16 期以降大きな変動はなく、事業規模に大きな変化はないということがわかります。
 一方利益水準をみると第 16 期をピークとして、利益は下降しており、倒産直前の第 18期では、経常損失 4 億円、当期純損失 18 億円を計上しています。
 ただ、純資産の金額は第 18 期末でも、446 億円もあり、次の期に倒産してしまうほどではないように思います。
 しかし、キャッシュ・フローに関する指標と見てみると、状況は、はっきりします。
 第 15 期は、営業活動によるキャッシュ・フロー148 億円の中から、施設や設備などへの投資(投資活動によるキャッシュ・フロー)を 53 億円拠出していることがわかります。
 それが、第 16 期では、営業活動によるキャッシュ・フロー96 億円に対し、131 億円の投資を行っています。不足資金については、財務活動によるキャッシュ・フロー175 億円で賄っています。要は、借入を行ったということです。
 同様に、第 17 期を見てみると、業績が下がっていることから、営業活動からは 10 億円しか資金が調達できていません。それにも関わらず、100 億円を超える設備投資を行っています。結果として、資金の残高が 306 億円から 231 億円と 75 億円も少なくなっています。
 問題は、第 18 期です。業績が赤字に転落し、営業活動によるキャッシュ・フローが 3 億円しか残りませんでした。ところが、投資活動によるキャッシュ・フローは 139 億円と、前年をも上回る設備投資を実施しています。前々期に多額の借入を行っていることから、おそらく、新規借入ができず、財務活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなっていると思われます。結果として、資金残高は 70 億円と前年の 3 分の 1 以下となりました。
 翌年、この企業は業績を回復することはできず、150 億円を超える経常損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローもマイナス 101 億円となり、倒産に至りました。
 その企業の記事などを見ると、設備投資により業績を回復するというシナリオだったようです。第 16 期、第 17 期と 2 期にわたって、多額の設備投資を行いましたが、業績は回復せず、むしろ悪化してしまいました。しかし、まだ瀕死の状態にまではなっていませんでした。  会計の数値には明確に経営戦略の失敗が表れています。何故、その企業はここで戦略を変えることができなかったのでしょうか。 第 18 期に 130 億円もの投資をやってしまったのでしょうか。年 1 回外部に交渉される決算数値だけでも異常点が見えますので、その企業内部の管理会計の情報では、もっと早期に、数値の異常には気付けるはずです。
 「会計を無視した経営」により、企業を倒産させるという会計の失敗事例です。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水グループ まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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