中小企業が金融機関から借入を行う場合は、一部の制度融資を除き、経営者の連帯保証を要求されるケースが多いかと思います。
中小企業とはいえ企業の借入金は多額となります。それを経営者個人が連帯保証しますと、結果として、一生で払いきれないほどの責任を負ってしまうことになるかもしれません。仮にその企業が倒産すれば、経営者は破産です。
この企業の借入金と経営者保証のアンバランスによる弊害を解消する目的で、平成25年12月に、「経営者保証に関するガイドライン」というものが公表され、翌年2月より運用が開始されました。
経営者保証に関するガイドラインは、経営者の個人保証について、
(1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(年齢等に応じて100万円〜360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などが中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルールとして定められています。
政府の公表資料によれば、新規の融資のうち、政府系金融機関で24%、民間禁輸期間で12%の融資について、このガイドラインを適用し、無保証での融資が行われているそうです(平成27年4月〜9月)。
どうすれば、経営者は、無保証での融資が受けられるのでしょうか。
金融庁から、経営者保証ガイドラインの適用事例が公表されていますので、いくつかご紹介したいと思います。
<経営管理の強化に取り組んでいる取引先に対して経営者保証を求めなかった事例>
(企業の概要)
● 建設工事及び建材卸売業を営んでおり、建材卸売部門では大手メーカーや商社等と代理店・特約店契約を結んでおり、多種多様な商品(内外装タイル、ユニットバス、耐火壁、エレベーター等)を取り扱っている。
● 震災復興関連工事の受注の増加により増収基調が続いており、内部留保も厚く堅固な財務内容を維持している。
● 経営者より、「経営者保証ガイドライン」を活用した融資の申し込みをした
(銀行が無保証融資をした理由)
● 決算書類について「中小企業の会計に関する基本要領」に則った計算書類を作成し、地元の大手会計事務所が検証等を行っているなど、法人と経営者の関係の明確な区分・分離がなされていること
● 内部留保も厚く堅固な財務内容を維持しており、償還面に問題がないこと
● 四半期毎に試算表等の提出を行うなど、当社の業況等が継続的に確認可能なこと
● 長年の取引があり、リレーションが十分に構築できる
<適切に在庫管理を行っている取引先に対し経営者保証を求めなかった事例>
(企業の概要)
● 長い業歴を有する真珠加工卸売業者である当社は、国内外に200社以上の取引先を確保しており、業況は安定している。
● 銀行との取引は 1 年余りと短いものの、海外での売上げが好調で増収増益となっていることから、銀行から運転資金枠の設定を積極的に提案されていた
(銀行が無保証融資をした理由)
● ABL(動産担保融資)を活用した
● 当社の取り扱う真珠は、天然素材及び宝飾品としての市場価格があり、ABLに適していること
● 事務所、倉庫、作業場での在庫の管理状況に不安はなく、データ管理に基づくモニタリングが可能なこと
● 市場価格と在庫状況からシステムを利用して、随時、在庫評価額が把握できること
前者は、決算管理体制・開示、健全な財務体質、長年の取引関係があるケース、後者は、客観的な評価が可能な動産があり、業績が安定しているケースになります。
いずれも経営者が保証すれば直ちに融資が引き出せるような優良企業とは思いますが、「経営者保証ガイドライン」のチェック項目を銀行と相談して、クリアーできれば、企業の信用のみで融資を引き出すことができます。
金融行政の近年の新しい取組みです。是非、ご参考頂ければと思います。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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