中小企業の資金調達として、 「運転資金」 、 「設備資金」と紹介をいたしました。もうひとつの資金使途として「長期運転資金」というものがあります。長期的な運転資金という意味ですが、具体的に何を指すのでしょうか?
1. 「ビジネスサイクルが長期間にわたるビジネスの運転資金」
在庫を仕入れてから販売し、販売代金を回収するまでに長期間を要するビジネスを営んでいる場合は、通常の運転資金を長期間に亘って調達する必要が生じます。
例えば、不動産開発を行っている企業は、土地などを購入し、開発し、販売するまでに相当の期間を要します。土地を購入してから開発に入るまでに何年も要することだってあり得ます。仮に、土地購入から販売代金回収までに3年かかる場合は、手許資金がない場合、
3 年契約での借入を起こすことになります。
在庫が不動産ですので、銀行もその不動産を担保に取ることで資金は出しやすくなりますし、その企業に実績があれば、担保価値以上の貸出もしてくれることもあろうかと思います。
これは、正常な運転資金といえます。
2. 「事業拡大期の先行投資資金」
事業の拡大期にある企業は、その売上の増加に備えて先行して事業投資を増加させる必要が生じます。事業拠点を拡大するに当たっては、新たな設備投資を行います。これについては、前回説明した「設備資金」の考え方で資金調達を検討することになります。
しかし、事業拡大期は、設備投資以外にも、人的な投資や在庫投資も増やしていく必要があります。前年の売上水準を上回る前提での投資ですが、実際に目標の売上を達成するかどうかは結果を見てみなければわかりません。
目標売上を達成した場合は、予定通りの資金回収ができますので、通常の運転資金の考え方で資金調達をすれば間に合います。
目標売上を下回った場合は、予定通りの資金回収ができなくなります。また、返済資金を別の売上金で賄わないといけなくなります。従って、借入をする段階で、下振れリスクを想定して、返済時期を本来の予定よりも遅らせておくことがポイントになります。
逆に、目標売上を上回った場合はどうでしょうか。さらに販売を増やしたいのに、仕入資金や採用のための資金が足りないという事態になります。そうなった時点で追加の借入をすることでも良いと思いますが、機動性を考えて、借入をする段階で、上振れリスクを想定して、借入額を多めにしておくことがポイントになります。
つまり、事業拡大期の借入は、 「長めに多めに」という借り方が望ましいということになります。
一方、銀行サイドから見ると、事業拡大という意気込みはわかるのですが、将来の資金使途がはっきりしないところがあります。したがって、これまでの企業の実績、銀行取引の実績、担保余力などが重要となります。また、外部専門家などを活用して客観性の高い事業計画や決算を提出し銀行の信用を得るということも方法としてはあると思います。
こちらも正常な運転資金といえます。
3. 「使途が不明確な長期運転資金(?) 」
さて、3点目が問題です。長期運転資金という名目で借入を行っているのですが、実のところ明確な資金使途がないケースが多く存在します。
資金が潤沢にあって、銀行とのお付き合いで借りているケースは、その借入資金を使わないようにしておけば、特に問題はありません(利息はもったいないのですが) 。
業績が芳しくない時期に、当面の運転資金として借り入れる場合や銀行からそれまでの短期借入の枠減らして欲しいと要求され、その足りない部分を長期借入とする場合があります。
銀行は、それまでに、返済を滞らせたことがなければ、業績がよっぽど悪くない限り、そういった融資にも応じてくれると思いますが、借り入れた時点で、返済原資の予定が立っていないケースが目立つように思います。
これは、将来業績が好転した時の資金で返済する長期借入です。
特に、意識を持っておかなければならないのは、その返済資金は、税金を支払った後の利益からしか出せないということです。
減価償却費相当額をその返済に充てることも実務的には可能です。しかし、減価償却費当総額は、本来、設備資金の返済に充てるか、将来の設備投資のために社内留保すべきお金です。これを長期運転資金の返済に回すということは、将来の設備投資を放棄していることと同じです。
使途が不明確な長期運転資金は、非正常的な借入です。
銀行の担当者は、借入を行う時にそのようなアドバイスはしてくれません。経営者が、借入の目的や性質を自ら意識して取り組むことがとても大切と感じます。
中小企業の資金調達については、これにて。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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