財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成30年5月号》
事業承継−中小企業の現状

 中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」の内容に沿って、説明を続けます。中小企業における事業承継は、どのような現状にあるのでしょうか。
 (1)後継者確保の困難化
 日本政策金融公庫総合研究所が2016年に公表した調査によると、調査対象企業約4,000社のうち60歳以上の経営者の約半数(個人事業主に限っていえば約7 割)が廃業を予定していると回答しているそうです。

 図 後継者の決定状況

後継者の決定状況

 (出典)日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016 年2 月)

 この調査では、廃業予定企業であっても、約3割の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、今後10年間の将来性についても約4割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答しているそうです。廃業予定企業が必ずしも業績悪化や将来性の問題のみから廃業を選択しているわけではないことがわかります。

 事業の維持継続が可能な企業が廃業を選択することは、地域経済や地方の雇用維持あるいは技術・ノウハウの継承といった視点で、被る損失は計り知れません。どうにか円滑な事業承継ができなかと政府は考えているところです。

 (2)親族外承継の増加
 後継者確保の困難化等の影響から、近年、親族内承継の割合の減少と親族外承継の割合の増加が生じているそうです。
 また、経営者の在任期間が短ければ短いほど、親族外承継の割合が増加する傾向にあるようです。
 図 経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係

平均引退年齢

 (3)早期取組の重要性
 また、別のアンケートでは、経営者が後継者を育成するのに必要な期間について、5年〜10年程度かかるという回答が過半数をしめました。つまり、それなりの引継期間が必要だと多くの経営者は認識しているということです。  一方、事業承継の準備状況については、既に準備をしていると回答した経営者は、40歳代までの経営者で19.5%、60歳代以上の経営者においても50%に満たず、さらには80歳代の経営者においても47.7%と、長期間かかるはずの事業承継に向けての取組みが大半すすめられていない現状が明らかにされています。

 事業性はあるが、事象承継の取組みには時間がかかり、相談相手や情報の入手先もなかなか見つからず、手が付けられないという状況で、経営者が廃業を選択してしまうという側面が、現実にあるようです。  ご自身の営まれている事業の社会的な役割や責任を一度振り返って、本当に廃業でよいのかを再考頂けるよう様々な事業承継に関わる政策が打たれているように思います。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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