前々回、前回と記載してきましたが、事業承継は、早期に着手し、専門家等の協力を得ながら、長期的視点で着実に実行してゆく必要があります。また、事業承継は、以下のようなステップを踏んで実行されてゆきます。
「必要性の認識〜プレ承継」
まずは、経営者自身が事業承継に向けた準備の必要性をしっかりと認識し、その後、経営状況や経営課題等を把握し、これを踏まえて経営改善を図り、事業承継に向けた企業の足腰を固めるところから始まります(プレ承継)。
「親族内・従業員承継か、M&Aか」
つぎに、親族内・従業員承継の場合は、後継者とともに事業承継計画を策定し、事業承継の実行に至ります。
社外への引継ぎを行う場合には、引継ぎ先を選定するためのマッチングを実施し、合意に至ればM&A等を実行します。
「ポスト承継」
事業承継完了後は、後継者により企業のさらなる成長・発展への取組みが期待されます。

(出処: 中小企業庁 事業承継ガイドラン)
「必要性の認識〜プレ承継」
ガイドラインでは、事業承継は、経営者が60歳に達したころにはスタートすべきと述べられています。もちろん、60歳を過ぎても精力的な経営者はたくさんいらっしゃるのですが、事業承継に向けた取組みは、10年スパンで検討すべき経営課題です。いざというタイミングでは、すでに時遅しとなっているケースも多いようです。
一方、事業承継は、単なる経営計画などとは異なり、経営権や親族関係にも関わる内容であり、そうそう簡単に他人に相談できない課題でもあります。
事業承継の必要性を知るきっかけとして、「事業承継自己診断チェックシート」が提供されています。一般的な事業承継の検討課題の骨子をリスト化し、どの程度事業承継を意識しているかを自己認識するためのシートです。
また、事業承継は、単に、後継者を見つけて渡せば良いというものではありません。承継する企業は、後継者にとって魅力的である必要があります。また、従業員や取引先が安心して働ける環境を維持する必要があります。さらに、事業承継に伴って生ずる法律的な課題や財務的な課題をクリアーする必要があります。そのためには、「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」することが大切になります。関係者で、経営状況・経営課題について共有認識を持ったうえで、より魅力的な企業として承継するために、「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」を行うことが求められます。後継者・従業員・取引先にとって、優良企業を承継される方が望ましいことには間違いありませんし、また、現経営者にとってもより優位な条件での承継をさせる可能性が増加します。
「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」のポイント
@ 会社の経営状況の見える化
・不動産の所有権及び借入金・担保・保証状況の把握
・正しい会計と自社決算書の差異分析
・自社株式、会社の資産・負債、知的財産の評価など
A 事業承継課題の見える化
・後継者の有無、賛成者・反対者の把握と対策
・相続税等税務負担の試算
「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」のポイント
@ 本業の競争力強化
(例)中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」を策定・実行、
「ローカルベンチマーク」の活用など
A 経営体制の総点検
・社訓、経営方針、社風
・会社組織体制、役職員の職制や職務権限
・業務の管理体制(規程・マニュアル等)
B 経営強化に資する取組
・企業の利害関係者への情報開示と信用力強化
C 業績が悪化した中小企業における事業承継
・事業再生に取り組むか事業整理を選択するか
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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