親族内承継では、株式や事業用資産を贈与・相続により移転する方法が一般に用いられます。その際に、贈与税・相続税の負担が発生しますが、場合によっては、多額の資金負担が生じることとなり、事業承継の大きな障害となります。ガイドラインでは、5つの基本的な制度等を紹介しています。
1.暦年贈与
財産を生前贈与する場合、贈与税が課せられます。いわゆる暦年課税贈与を活用する場合は、年間110万円の基礎控除を受けることができます。それを超えると10%〜55%の累進課税となります。従って、株式や事業用不動産など多額となる資産を生前贈与すると、高い税負担が生ずるリスクがあります。一方、納税資金等を数年に分けて、少ない税負担で後継者に贈与することが有利な戦略となることがあります。
2.相続時精算課税制度
生前贈与を行う際に、上記@の暦年課税贈与による他、受贈者の選択により、「相続時精算課税制度」の適用を受けることができます。同制度の概要は以下のとおりです。
・贈与者が60 歳以上の父母又は祖父母、受贈者が20 歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫(年齢は贈与の年の1 月1 日現在)。
・贈与税は累積で2,500万円までは課税されない。
・贈与額が2,500万円を超えた場合、その超えた部分については一律20%の贈与税。
・贈与財産の価額は、相続発生時に、相続財産の価額に合算され、相続税にて精算(贈与時の贈与税納付額は、相続税額から控除)。
ただし、以下の注意点がありますので、適用の可否、どの資産に適用すべきかなど、慎重に検討する必要があります。
・相続時精算課税制度を一度適用すると、その後同一の贈与者からの贈与については、同制度が強制適用され、暦年課税制度が適用できない。
・相続時に相続財産の価額に合算される贈与財産は、贈与時の価額(時価)で合算されるため、贈与財産の価額が相続時に上昇した場合には有利に、下落した場合には不利に働く。
3.非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除制度(事業承継税制)
平成21年度税制改正により創設された制度で、事業承継に伴って発生する相続税・贈与税の負担により事業継続に支障が生ずることを防止するため、一定の要件のもと、その納税を猶予・免除する制度です。また、平成30年度税制改正により、10年間限定の特例措置が設けられ制度が拡充されています。
平成30年度税制改正特例では、この制度を適用することにより、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への事業承継を対象に、後継者が相続・贈与により取得した株式の全額に対する相続税・贈与税の100%の納税が猶予されます。そして、後継者の死亡、会社倒産、次の後継者への贈与、全株式の処分等を行った際は、猶予された相続税額の一部又は全部が免除されます。
一方で、この制度を適用するに当たっては、以下の条件が必須となります。
・平成30年4月1日から平成35年3月31日までに、都道府県庁に「特例承継計画」を提出していること。
・平成30年1月1日から平成39年12月31日までに、贈与・相続(遺贈を含む)により自社の株式を取得すること。
また、適用の前後において、一定の要件が求められており、事前に専門家も関与した上で、十分な対応計画を立てて対応する必要があろうかと思います。
制度の詳細については、また、機会があれば触れたいと思います。
4.小規模宅地等の特例
個人事業者の事業用不動産や会社の不動産を先代経営者が個人所有しているケースが検討対象となります。被相続人等の事業の用に供されていた土地の一定面積について、事業継続等を要件として、相続税の課税価格を50%〜80%減額する制度です。
5.退職金
一般に、退職金はその支給を受けた人の所得税等の課税対象となりますが、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職金(死亡退職金)は、相続税の課税対象となります。
死亡退職金のうち、被相続人のすべての相続人が取得した退職金の合計額が、下記の非課税限度額の枠内であれば、課税されません(限度額を超えた部分について課税)。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
いずれの手法も一長一短があり、個別具体的な事案においては、最も適合的な手法を採用する必要があります。また、手法によっては前もっての準備が必要な場合もあります。
税理士、行政機関や金融機関など、専門家の適切な助言を仰ぐことが肝要です。
回答者 公認会計士 松尾 拓也
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