財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成30年11月号》
事業承継−親族内承継(4)財産の承継−株式、事業用資産、保証

 中小企業経営者は、事業承継を行うに当たり、債務・保証・担保等の円滑な承継にも留意する必要があります。中小企業で考えられるケースを想定してみます。

中小企業で考えられるケース

 対策が打てない場合は、退任したにも関わらず責任だけ負うようなことになりかねません。また、後継者にとっても、企業の債務に対する責任負担は、非常に重いものがあり、後継者自身がそのリスクを背負いきれないことも考えられます。

 近年では、このように個人保証等の問題が、円滑な事業承継を妨げる要因となっていることについて問題視されており、国も、金融機関に対して、個人保証に頼らない融資を協力に勧めているところです。
 また、これら弊害を解消するため、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」により、平成25 年12 月に「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「経営者保証ガイドライン」という。)が策定されました。
 ここでは、事業承継に際し、中小企業が積極的に情報開示することや金融機関が、連帯保証の地位承継ありきではなく、保証契約の必要性等に関する検討を行うことなど、同ガイドラインに沿った対応が求められています。つまり、事業承継に際して、個人保証が外せるような枠組みが設定されているということです。
 一方で現実を見ますと、東京商工リサーチが2016年2月に出した「経営者保証に関するガイドライン認知度アンケート報告書」によると、金融機関に対する経営者保証の解除の申出・相談を行った企業は19%程度、その申出を行った企業のうち、実際に保証解除となったあるいは解除となる予定の企業は、その過半にも満たないとのことです。

 ひとつには、「経営者保証ガイドライン」が求めている要件を企業が把握しておらず、保証解除ができるような体制が事業承継までに整っていないことが考えられます。
 「経営者保証ガイドライン」では、経営者保証(後継者含む)に依存しない資金調達を希望する中小企業経営者に、以下の対応が求めています。
@法人と経営者との関係の明確な区分・分離
A財務基盤の強化
B財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保
 まず、個人の財布と会社の財布を明確に区分することが求められています。中小企業は、十分なガバナンスがないケースが多く、社宅、交際費、資金貸付などで、経営者個人に関わる支出を会社で負担しているようなケースが散見されます。逆に本業が不振な時に、社長が個人マネーを投入し会社の業績を良く見せていることもあり得ます。金融機関が社長の個人保証を解除するためには、金融機関が企業そのものの収益性を検討しうる状態でなければならないということです。
 ふたつ目の財務基盤の強化は、無担保でも融資ができるような健全な財務基盤を築く必要があるということです。当然のことではありますが、信用リスクの高い会社に、銀行が無担保・無保証で融資を行うことはあり得ません。
 最後は、適時適切な情報開示です。上記2点が整っていたとしても、決算数値が不正確であったり、粉飾されていたりしては、金融機関としては元も子もありません。適正な会計処理を行うこと、そして、定期的に財務情報を開示することが、担保解除の要件となります。  

 従前の経営者の経営で、そのような対応を行っていない場合は、事業承継を検討するに当たり、上記3要件が満たせる環境づくりを行う必要があります。いずれも、短期間で達成できる内容ではなく、数年かけて体制変更をしていくような論点だと思います。
 また、このような取組みを通じて、金融機関との関係も密なものとなり、それ自体が承継後の企業の信用を作ることにも繋がります。
 このような事前対策を取ることによって、結果的に、無担保・無保証の融資に切り替われば、後継者の負担も大きく軽減され、前向きに経営と向き合うことができるようになると思います。

 有形の資産や人については、目に見えますので、対策も明確にしやすいと思いますが、連帯保証など目に見えない負担については、検討が遅くなりがちです。しかしながら、中小企業の経営にとって、個人保証等の問題は大半の企業が抱えている問題でもあります。
 資産や人材の承継対策と同時に検討していく、重要な課題と考えます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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